2016 Fiscal Year Research-status Report
金属錯体型塩基対の形成を構造基盤とするDNA複製反応の制御
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15K05574
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Research Institution | Osaka University of Pharmaceutical Sciences |
Principal Investigator |
浦田 秀仁 大阪薬科大学, 薬学部, 教授 (80211085)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 金属錯体型塩基対 / プライマー伸長反応 / DNAポリメラーゼ / 5位修飾ピリミジン塩基 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ウラシル塩基の5位修飾(チミン塩基の5位メチル基の他の置換基への変換)が、金属錯体型塩基対を含む二重鎖DNAの安定性及びDNAポリメラーゼによる金属錯体型塩基対形成反応に及ぼす影響を明らかにしようとするものであり、平成28年度は引き続きデオキシウリジンの5位修飾体の合成と、新たにデオキシシチジンの5位修飾体の合成を行った。その結果、デオキシウリジンの誘導体として5-ヨード体、5-ヒドロキシ体、5-トリフルオロメチル体、5-エトキシ体、デオキシシチジンの誘導体として、5-ヨード体、5-ヒドロキシ体、5-トリフルオロメチル体の合成に成功し、今後、オリゴヌクレオチドに組み込み、金属イオン存在下でのプライマー伸長反応を行う最終年度に向けての準備が整いつつある。 以上と並行して、5-フルオロデオキシウリジン(5-FdU)または5-ヒドロキシデオキシシチジン(5-OHdC)を含む鋳型DNAをカスタム合成により入手し、DNAポリメラーゼによるプライマー伸長反応を行ったところ、T-Ag(I)-C塩基対より5FU-Ag(I)-C塩基対の方が形成されやすくなることが判明した。これは、フッ素の電子求引性により3位NHの酸性度が上昇することから、3位NHの脱プロトン化が必要なAg(I)錯体型塩基対の形成に有利になったこと、また生成したAg(I)錯体型塩基対に存在する+1の陽電荷がフッ素の電子求引性により安定化する効果があると考えられる。 以上の結果から、5FU-Hg(II)-T塩基対の形成されやすさはT-Hg(II)-T塩基対の形成と有意な差はないことから、Tの代わりに5FUを用いることで、Ag(I)イオンとHg(II)イオンによる5FU-Ag(I)-C塩基対と5FU-Hg(II)-T塩基対形成の選択性の向上と、5位置換基によるプライマー伸長反応の選択性を向上させた最初の例となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
5位修飾デオキシウリジンおよびデオキシシチジン誘導体の合成は、27年度は予想外に手間取ったが28年度は順調に進展し、幾つかの5位修飾デオキシウリジンおよびデオキシシチジン誘導体の合成が達成されたことから、29年度はこれらの5'-三リン酸体への変換やオリゴヌクレオチドへの組み込みができ、DNAポリメラーゼを用いたプライマー伸長反応に供することが可能になるものと考えている。 また、5位修飾ヌクレオシドの合成が27年度は手間取ったことから、カスタム合成による5-フルオロデオキシウリジン(5-FdU)または5-ヒドロキシデオキシシチジン(5-OHdC)を含む鋳型DNAを購入し、DNAポリメラーゼを用いたプライマー伸長反応を行い、特にウラシル環に対するフッ素の電子求引性効果が金属錯体型塩基対形成を経るプライマー伸長反応に及ぼす影響を示すことができた。 さらに、5-FdUまたは5-OHdCを含む15merオリゴヌクレオチドもカスタム合成により購入し、T-Hg(II)-T及びT-Ag(I)-C塩基対を含む二重鎖の熱安定性がチミンを5-FdU、シトシンを5-OHdCに置き換え、つまりウラシルに電子求引性基を、シトシンに電子供与性基を導入することによる影響も評価しており、ほぼ当初の予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の実施計画である「金属錯体型塩基対の形成を介するプライマー伸長反応の検出プローブの設計と合成」に関しては、プライマー伸長反応が効率良く選択的に進行する金属イオンと5位修飾核酸塩基との組み合わせから、当該金属錯体型塩基対の形成に不可欠なピリミジン5位の修飾様式(電子供与型or電子求引型)を抽出し、リンカーの構造をデザインし、このリンカーを介して蛍光性基を結合させることを予定していた。しかし、蛍光性基の蛍光特性を発揮させるのに適切なリンカーの構造とそのピリミジン5位への電子効果が必ずしも一致しないため、まずは水銀イオンの配位を介した塩基対を形成することにより蛍光強度が著しく増大することが知られている (A. Okamoto et al., J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 4820) 5位をピレン修飾したデオキシウリジンを合成し、これを組込んだ鋳型鎖を合成しプライマー伸長反応に供することで、金属錯体型塩基対形成を介したプライマー伸長反応の光学的検出を目指すこととした。これを、DNAコンピューターを視野に置いたlogic gate (デジタル論理回路) への応用に繋げていく予定である。前年度未執行の予算を含めた今年度予算の一部で5位を蛍光性基で修飾したデオキシウリジン誘導体の合成、およびそれを含む鋳型鎖(オリゴヌクレオチド)の合成に当てる予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の実施は学部5年次生および6年次生が主体となっており、1月~3月の年度末は6年次生は卒業、薬剤師国家試験に向け研究活動は終了しており、今年度の同時期は5年次生全員が病院・薬局実務実習を履修していたために新たな消耗品支出は生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越される助成金 (51,510円) は次年度助成金と合わせ、「今後の研究の推進方策」で述べたように、5位蛍光標識ヌクレオシドの合成、それらのアミダイト体への変換およびこれを用いたオリゴヌクレオチドの合成に要する試薬等の経費に当てる。また、5位修飾ヌクレオシドの3’-リン酸体への変換に要する試薬、溶媒等の経費も必要となる。 以上の合成関連経費に加え、必要に応じて金属イオン存在下でのプライマー伸長反応の検討全般において必要な鋳型鎖、蛍光標識プライマー、DNAポリメラーゼ、および反応の解析を行うゲル電気泳動関連の消耗品は前年度と同様である。
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Research Products
(1 results)