2016 Fiscal Year Research-status Report
革新的単独運転検出技術の開発とスマートグリッド技術基盤への応用
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15K05965
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉田 義昭 広島工業大学, 工学部, 准教授 (50726867)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 単独運転 / 高調波電圧 / 能動信号 / 同期注入 / 系統連系インバータ / 高低圧混触事故 / 地絡電流 / 三相不平衡 |
Outline of Annual Research Achievements |
以下の3項目について取り組んだ。 (1) 負荷による高調波電圧と能動信号を同期注入する手法の実験検証: 単独運転を定常的作り出す実験回路を構築した。系統連系インバータを電流源(単相二線,100V,1A,60 Hz)で模擬した。負荷は,LED(7.5 W),モーター負荷(22W),白熱電球,微調整用負荷(R,C)である。この条件下で,能動信号(5次高調波電流)を1~3%の間で2段階に変化させて,連系点の高調波電圧の変化に推定手法を適用した結果,「高調波発生負荷が作る高調波電圧」と「能動信号」が強め合う方向(同期注入方向)を誤差10度以内の精度で推定できた。 (2) 系統連系インバータの開発と高調波注入方式の実機検証: 32ビットマイコン(ARM Cortex-M7)を用いた系統連系インバータ(単相二線,定格100V,1A,60 Hz)を開発した。PLL(位相同期)は電圧歪みがある系統にも精度よく連系でき,かつ基本波や高調波の瞬時電流制御を可能とするために,DFTとPI制御から構成した。能動信号を注入しない場合は単独運転が継続することを確認した。(1)で検証した高調波注入方式をインバータに実装した。遮断器開放後,約0.15秒(9サイクル)で単独運転を検出できた。これはシミュレーションで得た結果とほぼ同じである。 (3) 高低圧混触事故の低圧線側からの直接検出に関する基礎検討: 単独運転が起こる要因(系統側遮断器の動作原因)に「①高低圧混触事故」,「②停止工事等による遮断器開放」がある。②は前駆現象がない。一方,①は遮断器開放前に前駆現象(零相電圧や地絡電流の発生)があるが高圧側の零相電圧は低圧側からは検出できない。しかし地絡電流は三相不平衡であるため,線路インピーダンスを介して線間電圧の変化に不平衡を生じる。すなわち低圧系統から直接検出できる可能性があることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の課題である「混在連系時の検出閾値を設定不要とする手法」については「高調波注入方式」と「直接検出方式」の二通りの研究を進めてきた。 「高調波注入方式」については以下の2項目を進めた。1つ目は,系統連系インバータを電流源で模擬し,定常的な単独運転状態を作り,モーター負荷率が22%と低い場合(単独運転時の負荷による5次高調波電圧が1%を超える場合)について良好な結果を得た。本結果については研究発表も行った。モーター負荷率が高い50%~75%の場合(単独運転時の負荷による5次高調波電圧が1%未満の場合)でも良好な結果を得られたため,次年度に研究発表を行う予定である。2つ目は,系統連系インバータを開発し,同方式を実装することで,単独運転前後を通じた動作検証を行った。実験の結果,0.15秒程度(9サイクル)で単独運転を高速に検出できた。同期注入位相の推定に4サイクル程度必要とするが,能動信号の二段変化を高速に検出し推定処理することが可能である。 「直接検出方式」については,理論解析を行い,その方法を定量的に検討した。本方式を用いれば,単独運転が開始する前の高低圧混触事故を柱上変圧器の二次側から検出できる。能動信号を用いないため,電力品質への影響はない。分散型電源の集中連系時にも対応できる見通しが得られた。 「電力品質の維持(特に高調波抑制)を可能とする手法」として,開発した系統連系インバータの高調波注入機能を応用した。系統連系時において能動信号(5次高調波電流)の位相を360度変化させることで,系統に存在する5次高調波電圧と強めあう方向と弱めあう方向が存在し,高調波抑制が可能であることを確認した。次年度に研究発表を行う予定である。 「高調波発生負荷の稼動状態の推定」については,LED電球とモーター負荷の高調波等価回路の推定することを目標にその基礎特性の把握を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は「高調波注入方式とFRTとの両立性を可能とする手法」の検証に取り組む。FRT試験(瞬時電圧低下試験や周波数変動試験)を行うことができるように,本研究室所有の電力増幅器の調整を行う。高調波注入方式の基礎となる単体性能検証については平成28年度に確認できた。しかし同一方式や異種能動的方式が複数台(2~3台)連系した場合の性能評価と実験検証が未完了である。FRT要件の検証に含まれる試験であるため,これも併せて進める。このため複数台連系用に実験回路を増設(単相二線と三相三線の二種類)する必要もある。 「高調波注入方式」の検出閾値を設定不要とする手法として,能動信号強度を正帰還で強めて,単独運転時の高調波電圧レベルを上げていくことが当初の方法である。別の方法として,系統連系時の能動信号に対する高調波電圧変化量を定期的に測定し特性化することで,系統連系インバータが単独運転前後の変化閾値を自動的に設定して,外部からの設定値を不要にする手法も考えられる。さらに高調波電圧位相の変化を利用することも考えられる。複数の手法を比較検討しながら有効な成果が得られるように研究を進める。 「直接検出方式」は当初の研究計画には含まれていなかったが,検討の結果「混在連系時の検出閾値を設定不要とする手法」として有効であることがわかった。高低圧混触事故は単独運転の前駆現象であり,これを低圧側から検出できれば,事故の予測が可能となる。つまり「直接検出方式」の有効性を実験的に実証することで,本研究の目的を効率的に達成できるため,「高調波注入方式」と併行して研究を進める。 平成28年度の課題であった「高調波発生負荷の稼動状態の推定」については基礎的検討を終えた段階である。今年度はLED電球とモーター負荷の高調波等価回路の推定手法を確立し,負荷の状態推定技術に応用できるように研究を進める。
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Causes of Carryover |
平成27年度に難航した「実験用系統連系インバータ」の設計開発は,平成28年度に概ね達成することができた。しかし,単体のみの性能評価や実機検証を済ませた段階であり,複数台連系時の実験検証に必要なインバータ製作費や実験回路の増設費用が未使用となった。また開発コストを抑えるため,インバータ主回路等の設計にシミュレーション解析を行わずに,インバータ開発用の専門書を参考にエクセルによる数値計算で代用した。また回路ユニットごとに手作業で製作し,その都度,性能確認を行った。そのため,解析ソフトの購入費が未使用になった。また研究発表を国内のみで行ったため外国旅費が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の未使用額(約110万円)は以下の配分で使用する計画である。 ①単相二線用の系統連系インバータの製作費(3台):10万円×3 = 30万円,②三相三線用の系統連系インバータの製作費(1台):10万円,③プログラム開発用パソコン(1台):10万円,④系統連系インバータとのインターフェース用パソコン(2台):5万円×2 = 10万円,⑤実験回路の増設:18万円,⑥研究発表(国内:4件):8万円×4 = 32万円
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