2015 Fiscal Year Research-status Report
チロシンキナーゼ-阻害剤間相互作用の速度論的解析に基づく抗がん剤耐性機構の解明
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15K06978
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小橋川 敬博 熊本大学, 生命科学研究部, 准教授 (90455600)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森岡 弘志 熊本大学, その他の研究科, 教授 (20230097)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | チロシンキナーゼ / 阻害剤耐性変異体 / ゲートキーパー変異体 |
Outline of Annual Research Achievements |
受容体型チロシンキナーゼの1種であるFGFR1は種々のがんに関わっており、重要な創薬標的となっている。本研究課題ではFGFR1のがん変異体、その中でも特に抗がん剤耐性変異体に着目し、阻害剤との相互作用の物理化学的解析に基づき、阻害剤耐性機構の解明を目指している。物理化学測定にはmgオーダーの試料が必要であるが、チロシンキナーゼは大腸菌発現系での調製が困難な試料である。これまでに、FGFR1の大量調製系の構築に成功しており、本研究課題ではこの手法を用いた。本年度は、NMRを用いて、野生型とがん変異体との間の動的構造状態の違いについて検討を行った。チロシンキナーゼは活性化ループ、C-helix、P-loopの3つの領域の構造を大きく変化させることで活性化される。がん変異体ではこれらの領域が均一に活性化型構造に平衡が偏るのではなく、がん変異体に応じて一部の領域のみが活性化型構造に変化することを明らかにした。さらに、蛍光スペクトル、Differential Scanning Fluorometry (DSF)を用いて野生型と抗がん剤耐性変異体について阻害剤及びATPアナログとの相互作用を解析した。その結果、V561M変異体 (ゲートキーパー変異体)ではPonatinibとDovitinibに対する親和性は野生型と同等であった。N546K変異体 (Molecular Brakeの変異体) についても同様であった。一方、N546K変異体はATPアナログに対する親和性が10倍になっていた。現在使用されるチロシンキナーゼ阻害薬の大半がATP拮抗阻害薬であるので、N546K変異体による耐性機構はATPに対する親和性の増加によるものであることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に推進していると言える。当初は等温滴定熱量測定 (ITC) によりFGFR1と薬剤の相互作用を評価することを目指していたが、薬剤の溶解性のために難航した。そこで、ITCからDSFに方法を変更することによりこの問題をクリアした。さらに、ATPアナログとの相互作用もDSFにより評価したが、ATPアナログとFGFR1の結合が比較的弱く、ITCでの解析が困難であった。この点に関してもDSFを用いることでクリアすることができた。また、NMRにより、薬剤耐性変異体と野生型の動的構造状態の相違について検討を行った。これは、当初は平成28年度以降に予定していた実験であったが、前倒しで行った。以上の理由により、概ね順調に推進していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
表面プラズモン共鳴 (SPR) によるFGFR1-阻害剤間相互作用の速度論的解析を行う必要がある。SPRセンサー表面へのFGFR1の固定化法について検討を行っている。これまでに、(1) 抗体をセンサー表面に固定化しておき、protein Gと抗体のFc領域との相互作用を介してprotein GとFGFR1の融合タンパク質を固定化する法、(2) NHSエステルと1級アミンとの反応を用いた共有結合による固定化法、(3) NTAセンサーチップを用いたHis-tagによる固定化法 について検討を行っている。その結果、(1) と (3) では固定化したFGFR1がセンサー表面から徐々に解離し、シグナル強度が小さい低分子薬物の結合を検出する上で支障となった。(2)については、固定化によってはFGFR1が失活し、阻害剤が結合しなくなることが明らかとなった。GSTとGSTに対する抗体との相互作用は強固であり、センサー表面にGSTに対する抗体を固定化し、この抗体を介してGST融合タンパク質を固定化する方法はセンサー表面からの固定化タンパク質の脱離を抑える上で有効である。そこで、GST融合FGFR1を調製し、センサー表面に固定化することで、センサー表面からの脱離を抑えることを試みる。GSTは2量体タンパク質であり、キナーゼと融合タンパク質とした場合には発現ホストである大腸菌に対する毒性が著しく増大し、発現が困難となる。そこで、GSTとキナーゼを別々に発現させたのちに連結する方法について検討を行う。また、調製したGST融合FGFR1を用いてSPRセンサー表面への固定化を行い、阻害剤との相互作用に関する速度論的解析を行う。特に、ゲートキーパー変異体については、DSFを用いた相互作用解析からはPonatinibとDovitinibに対する薬剤耐性機構が不明であった。これらについて、速度論的解析を優先して行う。
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Causes of Carryover |
本年度は2048円を次年度へ繰り越した。少額であり、繰り越しによる研究への影響はなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越しは少額であり、使用計画への影響は微小である。
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