2017 Fiscal Year Research-status Report
発酵槽である盲腸をもたない哺乳類(真無盲腸目)の消化管内微生物叢の多様性と進化
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15K07191
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
篠原 明男 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 准教授 (50336294)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 真無盲腸目 / 発酵槽 / 16S rRNA / 微生物叢 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年になり、消化管内微生物叢は、宿主との栄養学的な相利共生のみならず、免疫や疾病など宿主の恒常性維持に大きく関与していることが明らかとなってきた。一方で、消化管内微生物叢は食性や消化管形態に応じて、その構成が異なることも知られてきたが、生息環境による影響は不明なことも多い。そこで本研究では、小型哺乳類のうち、微生物発酵槽となる前胃や盲腸をもたない極めてシンプルな消化管を持つ真無盲腸目に着目し、地下生活への適応度が異なる種の消化管内微生物叢の多様性を明らかにすることによって、食性と生息環境が消化管内微生物叢の構成に与える影響を明らかにすることを目的とした。 これまでに、地下生活型のコウベモグラ(Mogera wogura)および半地下生活型のヒミズ(Urotrichus talpoides)、地上生活型のワタセジネズミ(Crocidura watasei)、コントロールとしての実験動物用スンクス(Suncus murinus)と、野生捕獲したスンクスのクローニング法による実験を終えた。ワタセジネズミ(Crocidura watasei)の実験データは解析中であるものの、それ以外のデータを解析する限り、真無盲腸目の消化管内微生物叢にはBacteroidetes門が存在しないか極めて少ないことが示唆された。また、野生捕獲したスンクスの消化管内微生物叢は、飼育下にある実験動物用スンクスよりも微生物叢の多様性は高かったものの、半地下生活、地下生活を行う種よりも遙かに微生物叢の多様性が低いことが示された。これらの結果から、微生物発酵槽をもたないシンプルな消化管を持つ真無盲腸目の消化管内微生物叢は共通した特徴を持つが、飼育や、地下生活への適応度といった環境的な要因が微生物叢の多様性に関与している可能性が明らかとなってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度上半期の天候不順により実施できなかったフィールドワークの遅れを取り戻し、クローニング法による実験を順調に遂行し、ロングリードに関しては十分なデータを得た。発酵槽を持たない真無盲腸目のうち、地下生活型、半地下生活型、地上生活型の種の実験を終え、解析を終了した一部のデータは日本哺乳類学会2017年度大会において研究発表を行った。今後はデータを投稿論文としてまとめる段階にある。さらに、当初は解析予定になかった野生下のスンクスの捕獲を実施することが出来たことから、実験動物として飼育下にあるスンクスと、野生捕獲したスンクスのデータを比較検討することが出来た。真無盲腸目は盲腸がないことから、小腸と大腸の境界がわかりづらいものの、スンクスに関しては、これまでの実験動物としてのデータの蓄積から、消化管部位の境界が示されており、消化管部位ごとの解析も可能となる。そこで、スンクスについては小腸下部と大腸間における微生物叢の違いについてもクローニング法による比較を行った。その結果、野生下および飼育下の両方において、推定叢微生物種数の指標となるChao 1 indexは小腸下部よりも大腸において高い傾向が示された。また、飼育下よりも野生下で小腸下部と大腸において共にFirmicutes門の割合が低く、Proteobacteria門の割合が高い傾向が見られた。さらに、飼育下のスンクスにおいて、小腸下部では乳酸菌の割合が85.2%にも達していた。これらの結果から、微生物発酵槽をもたないシンプルな消化管を持つ真無盲腸目においても小腸下部および大腸において微生物叢構成が異なる可能性が示され、さらにその微生物叢は飼育による影響を受けて変化する可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
哺乳類の微生物叢は、一般的にFirmicutes門と、Bacteroidetes門の微生物叢が多勢を占めることが知られている。これらの微生物叢の存在比はFB比として知られ、ヒトやマウスにおいては、肥満の個体はFirmicutes門の微生物が多く存在し、Bacteroidetes門の微生物が少なくなる傾向が報告されている。したがって、FB比はヒトやマウスにおいては肥満指数もしくは太りやすさの指標として用いられることが多い。しかし、ここまでの研究から、発酵槽を持たない真無盲腸目においては、Bacteroidetes門が存在しないか極めて少ないことが示唆されている。したがって、真無盲腸目におけるFB比は限りなく大きい値をとることが想定され、肥満指標としては肥満型ということになるが実際に捕獲した野生のコウベモグラ、ヒミズ、ワタセジネズミ、スンクスにおいて極度の肥満であったという傾向は観察されていない。したがって、真無盲腸目においてはFirmicutes門とBacteroidetes門の微生物叢の存在比は肥満とは関係のない事象と関連している可能性も想定される。しかし、その一方で、飼育下よりも野生下のスンクスにおいてFirmicutes門の割合が低かったことは通説を支持しているとも考えられる。真無盲腸目においてBacteroidetes門が存在しないか極めて少ないという共通の特徴は、この分類群におけるエネルギー利用と何らかの関連性をもつ可能性を示唆するが、これまでの実験データは、いずれもクローニング法を用いたロングリードの実験データを用いた解析である。ロングリードによる解析は、微生物をより下位分類まで特定出来るものの、得られるリード数は多くない。そこで今後は次世代シーケンサーによる解析を実行し、その存在比をより詳細に検討する予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画の段階では、次世代シーケンサーによる解析を外注する予定であったが、所属研究機関において同等の解析が実施できる体制が整ったことから、同等の金額でより多くのサンプル数を解析するために所属機関における解析に切り替えることとなった。その実験準備に時間を要したため、次年度繰越金が生じた。
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Research Products
(1 results)