2016 Fiscal Year Research-status Report
シカ高密度生息地における森林の不可逆的変化と多様性再生プロセスに関する生態研究
Project/Area Number |
15K07231
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
前迫 ゆり 大阪産業大学, 人間環境学部, 教授 (90208546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
名波 哲 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70326247)
鈴木 亮 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (90418781)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 照葉樹林 / ニホンジカ / 森林更新 / ギャップ / シカ実験区 / 更新能力 / 多様性 / 木本実生 |
Outline of Annual Research Achievements |
はじめに: 春日山原始林に成立する照葉樹林は長年のシカ採食圧によって,生物多様性および更新に大きな負の影響を受けている。森林の多様性回復および更新を促すような順応的管理プログラムを動かすためには,シカ-森林共生メカニズムの解明が不可欠となる。そこで,本研究においては更新と埋土種子とシカの要因を明らかにするため、森林の更新能力を防鹿柵内での実生発生量と埋土種子の蓄積量の両面から検証した。 埋土種子由来の先駆種による急速なギャップの植生回復は土壌侵食・養分流出を防ぎ、種多様性の維持にも貢献すると考えられる。しかし高密度シカ個体群により、埋土種子は消耗し、森林の更新能力を低下させることが予想される。 調査方法: 春日山照葉樹林において、形成年代が異なると思われる9カ所のギャップを調査地として選択し、2015年10月に防鹿柵を設置してシカの被食圧を除いた場合のギャップの更新能力を測定した。更新能力の指標として2016年春の当年生実生の発生量を測定、同時に6カ所のギャップで埋土種子現存量の測定を行った。ギャップ形成年代を特定するため、8時期の空中写真をデジタイズ化して高精度3Dモデル解析を行い、3D画像上で目視によりギャップが確認できる時期を特定した。 結果と考察: 空中写真を解析した結果、選択した9つのギャップのうち5つは1-8年前(新期ギャップ)、2つは8-31年前(中期)、また残りの2つは54-69年前(古期)に形成されたと推定できた。新期ギャップに比較すると中期・古期のギャップでの当年生実生発生数と出現種数は有意に小さく(図1:p<0.01)、充実埋土種子数も低かった(図2:p<0.0001)。長期にわたるシカによる被食圧が続くことで、蓄積していた埋土種子が継続して発芽し被食されることでギャップの更新能力は低下し、防鹿柵設置の効果は著しく低下することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シカの影響に対する更新能力の評価と多様性に関連するデータを集積している。また,国内外来種と国外外来種の分布状況とその解析も行っており,全般的に順調に研究が進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでシカ実験区を設置し,生物多様性および更新,外来種に関する研究をほぼ予定通り進めている。しかし数年前より,ナラガレが発生し,ナラガレによる更新への影響を定量的に評価する事などを盛り込んでいるところである。実験区の一つにナラガレが発生したことによって,更新と多様性にプラスの影響が生じている。それはシカの採食影響を回避することによって,更新が進むだけでなく,多様性が増大したことである。 一方,多様性が増大してるなかで,国内外来種の定着(アオモジ)というあらたな問題も生じており,引き続き,本研究を継続しながら,現代的課題の解明と遂行に努力したいと考えている。
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Causes of Carryover |
旅費および人件費などが予想以上に下回ったが,予定していた調査は実施すると共に,学会発表なども行うことができたため,研究上はほぼ予定通りに進んでいる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
標高差による森林分布の違いがあるため,データロガーを設置し,気象条件に関する情報を取得することに使用したいと考えている。
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