2015 Fiscal Year Research-status Report
リン脂質誘導性ムチン小胞の分泌現象を利用した胃粘液増強食に関する研究
Project/Area Number |
15K07430
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田中 保 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 准教授 (90258301)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リゾホスファチジン酸 / 小胞分泌 / フィロポディア / 細胞膜運動 / 抗胃潰瘍 / 食品 / 生薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表的リゾリン脂質メディエーターのリゾホスファチジン酸(LPA)をヒト由来MKN74細胞に作用させたところ、50-100 nm程度の小胞が培養皿の底面に出現する現象が観察された。この小胞は過ヨウ素酸シッフ染色に陽性で、飽和型LPAに特異的、LPA濃度に依存的、処理時間に依存的なことから、LPA受容体を介した応答であり、受容体活性化に伴い、細胞内部ムチンを小胞に包んで放出しているものと考えてられた。本年度ではこの小胞の性質について検討を加えた。その結果、1)細胞膜染色試薬のPKH試薬で染色されることより疎水性領域を有する小胞であること、2)細胞非存在下(すなわち培地のみ)でもLPAを加えると小胞の出現が観察された。特に2の観察からこの小胞は細胞膜に由来するものではなく、LPAの集合体であると結論された。また、このような集合体は他のリゾリン脂質では観察されないが、ファイト型セラミド-1-リン酸などのリン酸モノエステル型脂質によく観察されることがわかった。 LPAで処理した細胞の電子顕微鏡観察では細胞膜表面に出芽小胞様の小さな構造体が観察された。また、LPAで処理した細胞の膜表面では手の指様の突起形成運動であるフィロポディアと呼ばれる運動が観察された。これらの細胞膜の活発な運動に関しては、LPAが関わっている可能性が示唆されたが、受容体の関与は不明のままである。 胃腸障害に効くとされる生薬素材21種について、LPAやその前駆体のPA含量を調べた。そのうち、2種が特にPAとLPA共に富んでいることが判明した。このうち1種の生薬より得られた脂質の抗NSAIDs潰瘍を調べた結果、これまで調べたいずれの天然脂質よりも効果が高いことがわかった。今後はその作用メカニズムを調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、LPAによって惹起される細胞膜由来の小胞分泌現象を解析することを研究デーマの一つとしていたが、この小胞はLPA単独で構成される脂質集合体であることが判明し、この研究項目は削除することになった。LPAの作用として今後、観察されていたもう一つの現象、細胞膜運動の活性化に焦点を当ていることとなった。この現象はLPAの消化管細胞への作用としては重要な役割を担う可能性もあり、詳細に検討を行う。 一方、LPAやPAに富む食材を利用した胃粘膜増強食に関しては、有望な生薬素材が見つかった。今後はこの抗胃潰瘍効果にで効果的にLPAやPAが関わるかどうかに関して調べなくてはならない。このように、大きく、3つの研究テーマで進めた。1つのテーマが想定外の展開であったが、残る2つのテーマは進めることができている。総合的にみれば、やや遅れている、と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
初期に計画した本研究の進め方は1)LPA誘導性の小胞分泌、2)LPA誘導性の活発な膜運動であるフィロポディアの生理的役割、3)LPAやPAに富む食品あるいは生薬素材による胃粘液増強食の創成であった。 今後は2)および3)に注力して進めることになる。 我々はこれまでに、LPAやPAに抗胃潰瘍作用を認めているが、メカニズムに関し、いまだはっきりしない部分が多い。LPAシグナルがMKN74細胞の細胞膜の構造変化、特にフィロポディアなどのダイナミックな膜運動の活性化を担っているかどうかについて調べる。また、この現象と胃粘膜保護との接点の有無について考える。以前、我々はLPAがLPA2を介して、COX2を誘導することを報告してるが、PGE2産生はLPA刺激と共に、カルシウム流入刺激が必要であった。胃粘膜上皮細胞においてカルシウム流入をもたらす刺激にはどのようなものがあるか、調べたいと考える。 一方、粘膜増強食に関しては有望な生薬素材が見つかってきているので、この素材の投与形状(脂質エキス化か、粉末かなど)、慢性潰瘍への効果などについて調べてゆく。
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Causes of Carryover |
企画した3つの研究計画のうち、1つが継続不能となった。このため予算の消化に遅れを生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額に振り分けた研究予算は残り2つの研究計画に振り分け、研究規模を拡大して使用する。
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Research Products
(7 results)