2015 Fiscal Year Research-status Report
ガラス転移温度に基づく粘弾性食品の物性評価および予測の確立
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15K07453
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川井 清司 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (00454140)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 弾性 / 粘性 / 粘弾性 / ガラス転移 / 食感 / 食品 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究目的は、これまでガラス状食品(乾燥食品)の物性制御に利用されてきたガラス転移温度を、ラバー状食品(粘弾性食品)並びに液状食品(粘性食品)の物性評価および予測にも利用可能にすることである。 本年度(1年目)は、モデル食品として糖質-水混合系試料を用い、ガラス転移温度と粘性率との関係を調べた。非晶質粉末を湿度が異なる様々な環境で保持し、水分含量を調節した。得られた試料のガラス転移温度を示差走査熱量測定によって調べ、ガラス転移温度の水分含量依存性をガラス転移温度曲線として整理した。得られたガラス転移温度曲線は、高分子分野で構築されたGordon-Taylorの式によって解析し、実測不可能な高水分系でのガラス転移温度を算出した。 一方、非晶質粉末に水を加えて撹拌することで、様々な濃度の水溶液試料を得た。各試料の粘性率の温度依存性を動的粘弾性測定装置によって調べた。いずれもニュートン流体としての挙動を示し、応力とずり速度との直線関係から粘性率を決定した。各試料の粘性率の温度依存性は、物理化学分野で構築されたVogel-Fulcher-Tammanの式によって解析した。この式にガラス転移温度での粘性率の値を組み込むことでGordon-Taylorの式と関連付けることができた。以上の結果より、ガラス転移温度から様々な温度および水分含量における粘性率を予測するためのアプローチを提案することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度(1年間)は、モデル食品として利用する糖質を研究に適したものに変えるなど、若干の変更はあったが、ほぼ計画通りに研究を進めることができたため、「概ね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は水と溶質との二成分系での検討であったため、次年度は更に複雑な多成分系での検討を今年度と同様に進める。また、粘性体よりも複雑なレオロジー挙動を示す粘弾性(ラバー状)試料を対象とした研究を新たに実施する。粘弾性試料の貯蔵弾性率および損失弾性率の振動周波数依存性を動的粘弾性測定装置によって調べる。線形応力領域を確認した上で一定応力を与え、0.1ヘルツから100ヘルツの振動周波数範囲において貯蔵弾性率および損失弾性率を求める。得られた結果を別途示差走査熱量測定によって得られるガラス転移温度と対応させる。 学内既設の動的粘弾性測定装置はねじり振動と応力との関係を調べるものである。この方式は液状(ペースト)食品に対しては問題無く適用可能であるが、固体食品に対しては、ギャップをどう設定するかなど、測定上の問題が発生する可能性が大いに考えられる。その場合、試料に上下振動を与える方式の採用を検討する。この測定装置については、自作、或は研究室既設のレオメーターを改良することで対応する。 更にモデル試料だけでなく、実在する食品を対象とした研究も進める。実在する食品を試料とした場合、ガラス転移温度を示差走査熱量計で捉えることができない可能性がある。その場合、研究室既設の昇温レオロジー測定の利用を検討する。但し、ラバー状食品のガラス転移温度は常温以下にあり、一旦冷却する必要がある。そのため、冷却器を新たに取り付けるなど、必要に応じて実験系を構築し、研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
実験実施上の都合により、次年度使用額が生じたが、本質的な問題ではない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成28年度)には解消される見込みである。
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