2015 Fiscal Year Research-status Report
分子生物学的解析によるスギのカリウムイオン膜輸送機構の解明
Project/Area Number |
15K07476
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
細尾 佳宏 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (80377184)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | カリウム / 膜輸送 / スギ |
Outline of Annual Research Achievements |
カリウム(K)イオンは、樹木の成長や生活に必須な陽イオンである。樹木の様々な生理過程におけるKイオンの働きは、細胞の生体膜を横切るKイオンの選択的取り込み・排出調節(膜輸送)と密接に連動しており、この膜輸送はチャネル、トランスポーターと呼ばれる膜タンパク質(膜輸送体)が担っている。本研究は、針葉樹(スギ)のKイオン膜輸送メカニズムを分子レベルで解明し、成長・生理過程へのKイオン膜輸送の関連性を明らかにすることを目的としている。 本年度は、スギのKイオンチャネル候補遺伝子のCjTPK1とCKT1、Kイオントランスポーター候補遺伝子のCjKEA1について、機能解析と発現解析を行った。機能解析では、大腸菌のKイオン取り込み能欠損株(LB2003株)を用いた相補性試験を行い、Kイオン取り込み機能の解析を行った。その結果、CjTPK1、CKT1、CjKEA1ともにKイオン取り込み活性を持つことが明らかになった。また、CKT1によるKイオン取り込みはセシウム、マグネシウム、アンモニウムの各イオンに影響を受け、CjKEA1によるKイオン取り込みはセシウム、カルシウムの各イオンに影響を受けることが分かった。発現解析では、スギの苗木から針葉、分化中木部、内樹皮、根の試料を採取し、リアルタイムRT-PCRにより各遺伝子の発現量を定量的に解析した。その結果、CjTPK1は分化中木部で他の部位よりも発現量が高かった。CKT1の発現量は根よりも地上部で高く、地上部では針葉と分化中木部で高かった。そして、CjKEA1の発現量は内樹皮よりも針葉、分化中木部、根で高かった。本年度の研究から、3個のスギKイオン膜輸送体候補遺伝子について、遺伝子産物(輸送体)のKイオン輸送機能や樹体内での発現の特性について新規の知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3個のスギ由来Kイオン膜輸送体遺伝子(Kイオンチャネル遺伝子2個、Kイオントランスポーター遺伝子1個)について、機能解析によりKイオン取り込み活性に関する知見を得ることができた。そして、発現解析により、4部位(針葉、分化中木部、内樹皮、根)における各遺伝子の発現量データを多く得ることができた。並行して、雄花と雌花の試料採取、RNA抽出、そして逆転写によるcDNA合成も行った。次年度以降、より多くの部位で詳細に発現解析を進めていくための準備は完了している。
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Strategy for Future Research Activity |
他のスギ由来Kイオン膜輸送体候補遺伝子(Kイオントランスポーター候補遺伝子2個)について、本年度と同様に相補性試験による解析を行い、遺伝子産物のKイオン取り込み活性について明らかにすることを目指す。さらに、Kイオン取り込み活性に対するKイオン以外のイオンによる影響についても明らかにしたいと考えている。また、リアルタイムRT-PCRにより各部位における発現量を定量的に解析する。本年度に発現解析を行った遺伝子についても雄花、雌花での発現量を新たに測定し、これらのスギ樹体内における発現の特性についてより詳細なデータを得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
当初計画時よりも研究用物品(試薬類、器具類)を安価で購入できたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成28年度)請求額と合わせて、旅費と消耗品(機能解析用や発現解析用の試薬類、器具類)に使用する。次年度は、海外出張(欧州開催の国際学会での成果発表・情報収集)を予定している。さらに、鹿児島で開催される国内学会での成果発表・情報収集も予定しており、今年度よりも多くの旅費を使用する予定である。また、発現解析用の消耗品については、より詳細に解析を行うために本年度よりも多くの研究費を使用する予定である。
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Research Products
(3 results)