2018 Fiscal Year Research-status Report
食品安全性の経済評価における仮想バイアス発生メカニズムの解明と補正係数の算出
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15K07602
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
栗原 伸一 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (80292671)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 食品安全性 / 消費者意識 / 仮想バイアス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、消費者に示す調査対象の見直しと、アンケート票の作成ならびに実験を計画し、最終年度となる2019年度の実施に向けての本格的な準備を行った。 具体的には、まず調査対象について、昨年度に設定した地理的表示に加え、ゲノム編集食品も対象にすることにした。その理由は2つあり、1つめは地理的表示が日本の消費者からは専ら質的保証と捉えられており、本来の目的である産品名称を保護することで生産業者の利益の増進と需要者の信頼の保護を図ることと乖離しつつあることである。もう一つの理由は、ゲノム編集食品が今後わが国で急速に普及する可能性を有していることである。先般、厚生労働省の専門部会がゲノム編集技術で品種改良した農産物には厳格な安全性の審査を求めないという報告書をまとめた。従来の遺伝子組み換え技術が自然界では起こりえないことを人為的に実現するものであったのに対し、ゲノム編集食品は当該農産物自身の遺伝子を切断することで品種改良を行うため、安全性が高いと判断されたのである。これによって、早ければ本年夏頃から店頭で販売される見込みとなった。このような新たな食品(農産物)に対する消費者意識を明らかにすることは、本課題のみならず、関連研究に資することが予想されよう。 次に、アンケート票と実験計画については、昨年度に決定した方針に従い、民間の調査会社の消費者モニターを対象としたWeb調査を前提として「たたき台」を作成した。具体的には従来の支払意志額(WTP)を問う質問群と、回答者(消費者)の変動効果の有無を検証する質問群(各種属性)からなるアンケート票の作成、そして選択実験のオプションの設計である。本年度作成したこれらの内容で、来年度はアンケートと実験を実施し、得られた結果を計量的に比較することで、本課題の目的である仮想バイアスの評価と、その発生メカニズムを明らかにすることができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本来、本研究は2018年度が最終年度となる予定であったが、下記のように調査方法の大幅な変更に伴って進捗状況に遅れが生じたため、1年延期して2019年度を最終年度とすることとなった。 昨年度までの予定では、アンケートと比較する実験を、仮設店舗で行う予定であった(会場実験)。実際の消費者行動を観測することがもっとも精度の高い結果を得られると考えたからである。しかしながら、自身の過去の実験を含め、仮想店舗での実験結果を用いた論文を改めて詳細にサーベイすると、仮想店舗では購買の環境をコントロールすることが難しく、かなり大きな標本(検出力から逆算すると最低でも160人以上)を抽出しないと統計的な検討ができないことが明らかとなった。しかし、仮想店舗での実験は1人当たりの費用が高い(過去の実験では1万円/人程度)ため、そうした大標本を確保するのは難しい。そのため、Web画面を使用した(離散)選択実験を実施し、その結果をアンケートで得られるWTPと比較することに方針を変更した。Web上での実験ならば大標本を低コストで確保するのも容易であるし、コンジョイント分析に代表される選択実験は、環境経済学の分野での適応事例も多く、実際の購買行動に極めて近い結果を把握できるような工夫も蓄積されているからである。とはいえ、回答者に示す選択オプションの作成は容易ではなく、非現実的な実験となりやすい。こうした問題を回避する手法の模索に予想以上に時間を要したことが、現在までに進捗が遅れた理由である。最終的には1980年代後半に Jordan J. Louviereによって開発され、近年では医療経済学や農業経済学の分野で注目されている「ベスト・ワースト・スケーリング(BWS)」の質問調査法を採用して、選択オプション(Web画面)の土台を作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に作成したアンケートと選択実験のコンセプトを基に、2019年度は民間の調査会社と綿密に打ち合わせを重ねて、Web調査用の画面を夏頃までに作成する。アンケートと選択実験を秋頃までに実施し、その後はそれらのデータを計量的に比較分析する。ただし、両結果の比較を行う前にWTPの概要やその要因を個別に分析して精度の高い研究を目指す。その後、冬頃までには仮想バイスの特定とその補正係数を算出し、それらの発生要因を計量的に捉える。分析には、比較的単純なトービット回帰モデル、もしくは因果関係を構造的に捉えるために共分散構造分析(SEM)を使用する。具体的には、これら計量モデルの結果変数にはアンケートと選択実験の(評価)乖離度を、また原因変数には被験者の属性や与えた情報の環境属性を設定する。特にSEMは、直接観測できない潜在変数を導入することで、潜在変数と観測変数との間の因果関係を明確にモデリングできることから、本課題の解明には適していると考えている。 こうした研究内容を最終年度に推進することで、これまでの自身の業績を含めた既往研究の精度を高める補正係数を算出するとともに、今後の(消費者意識の把握のための)調査票設計に一石投じる業績を示す。研究成果の報告の場としては、2019年度末の日本農業経済学会大会での個別報告を考えているが、論文執筆に割く時間を考慮すると、2020年6月に予定されている日本フードシステム学会大会での個別報告になってしまう可能性もある。いずれにせよ、学会大会で発表し論文として投稿することで、本研究の成果を社会や学術学会に確実に還元する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、本来は最終年度であった本年度までの研究の進捗に遅れが生じ、研究期間を1年延長して次年度を最終年度としたからである。遅れが生じた理由は、学内(学科長)及び学術学会の役員(農業経済学会企画担当常務理事)業務が膨大であったことと、本研究における実験方法を仮想店舗からWeb上での選択実験に大幅変更したため設計に時間を要したためである。 こうした研究の遅れに伴い、本年度予定していたアンケートや実験を実施できなかったため、本作業を依頼する予定であった民間調査会社への支払いが発生しなかった。次年度は、本年度に設計したアンケート調査と選択実験を、今回発生した次年度使用額を用いて、民間調査会社のモニターを対象に実施する計画である。
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