2016 Fiscal Year Research-status Report
カイニン酸誘発てんかんモデルにおけるPGE2受容体の役割
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15K07970
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Research Institution | Hokuriku University |
Principal Investigator |
松尾 由理 北陸大学, 薬学部, 教授 (10306657)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 癲癇 / プロスタグランジンE2 / EP3受容体 / カイニン酸 / 炎症 / 痙攣 / 神経細胞死 / ミクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに、脳梗塞後に大量に産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)がEP3受容体を介して、脳梗塞障害を悪化させることを明らかにしている。本研究では、カイニン酸誘発癲癇モデルにて、PGE2及びEP3受容体の痙攣と神経機能障害における役割について明らかにすることを目的としている。既に、PEG2合成に関わる誘導型酵素であるCOX-2とmPGES-1の発現が増加し、PGE2が海馬で産生されること、また、その受容体であるEP1~4のうち、特にEP2、3、4受容体の発現は有意に増加することを見出している。そこで、顕著な発現増加が認められたEP3受容体の役割を、EP3受容体欠損型マウスを用いて解析した。カイニン酸投与2時間の痙攣行動は、野生型に比べ欠損型で有意に軽度だった。また、4時間後の海馬歯状回でのc-fosの発現もEP3欠損型で軽度であった。さらに、痙攣誘発1日後の海馬CA3野の神経細胞の核凝縮と、3日後の脱落も、野生型に比べEP3欠損型で有意に軽度であった。また、この時のグリア細胞の活性化をIba-1、GFAPの発現にて検討したところ、EP3欠損型ではミクログリア、アストロサイトの活性化が有意に軽度であった。PGE2の産生と合成に関わる酵素の発現も検討したところ、EP3欠損型では野生型に比べCOX-2とmPGES-1の発現誘導が弱く、海馬PGE2産生量も低値であった。以上より、痙攣後に海馬にてEP3受容体が発現増加し痙攣行動を悪化させること、さらにEP3受容体はポジティブフィードバック的にPGE2シグナルを増強し、痙攣後のグリア細胞の活性化と海馬神経細胞死に寄与することが示唆された。従って、EP3受容体の役割がさらに明らかになれば、側頭葉癲癇治療の新たなターゲットになるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カイニン酸投与癲癇モデルにおいて、海馬でのPGE2の産生増加とEP3受容体の発現増加が認められたため、海馬における神経興奮と痙攣、さらには神経細胞死に、EP3受容体が関与する可能性が強く示唆された。実際に、EP3欠損型マウスでは、野生型マウスに比べ、痙攣が軽度であっただけでなく、痙攣後の海馬での神経細胞死も軽度であった。海馬でのPGE2の産生増加とEP3受容体の発現増加がEP3欠損型マウスで軽度であったことから、EP3受容体はPGE2シグナルにポジティブフィードバック的に作用し、炎症反応を増幅すると考えられた。行動実験においても、野生型でみられる不安異常が、EP3欠損型では見られないという興味深い結果が得られた。海馬での神経細胞死がEP3欠損型では軽度であることから、昨年度の記憶学習試験では遺伝子型間の有意な差異は検出できなかったが、記憶学習にもEP3受容体が寄与する可能性が考えられた。また、神経細胞死の機序を明らかにするため、グリア細胞の活性化について検討したところ、痙攣後のミクログリアとアストロサイトの異常活性化は、欠損型で有意に低値であった。海馬神経細胞の初代培養系でのカイニン酸による神経細胞死については、EP3受容体のアンタゴニストで有意な効果が認められなかったことから、グリア細胞を介した神経細胞死の促進が生じる可能性が示唆された。現在、グリア細胞活性化による神経細胞死誘発機序の検討を始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
In vivoの解析においては、EP3受容体の役割について、グリア細胞活性化を介した海馬神経細胞死の機序の解析を行う。即ち、グリア細胞活性化により産生されると予想される、IL-1βやTNF-αなどの炎症性サイトカイン、プロスタノイドやNO等の炎症性メディエーター産生について、野生型マウスとEP3欠損型マウス間で比較検討する。またこれらによる細胞死促進機序について検討を加える。 In vitroの解析においては、神経細胞を単離培養系においては、EP3受容体を介した神経細胞死の促進は認められなかったことから、グリア細胞を介した毒性促進機序を検討する。即ち、神経ーグリア間の連絡が保たれている海馬切片培養にて、カイニン酸刺激による毒性に対する、各種EPアゴニスト、アンタゴニストの効果を検討する。また、EP3受容体の関与について、野生型切片とEP3欠損型切片を用いて、さらに詳細に明らかにする。 本計画より、EP3受容体の側頭葉癲癇における痙攣行動とグリア細胞を介した神経細胞死への役割が明らかになるものと確信している。
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Causes of Carryover |
EP3受容体欠損型マウスの自家繁殖が思うよう進まず、欠損型マウスを用いた解析に一部遅れが生じた。また、28年度頭に北里大学から北陸大学への研究代表者の異動があり、異動先での研究室立ち上げのため、一時的に研究が滞り、少額ではあるが次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究では自家繁殖したEP3受容体欠損型マウスとその野生型マウスの維持のための床敷きや餌の費用、新たに購入するマウス、ラット等の費用が必要である。また、細胞免疫染色可能な抗体を購入する。グリアマーカーやサイトカイン等のmRNA発現解析のため、primer、mRNA抽出、cDNA作成、qPCRのためのキットを要する。PGE2量、サイトカイン量の測定には、EIAキットを購入する。In vitro培養実験では、動物の他、各種培養関連器具と試薬の購入を要する。さらに、各種生化学的、分子生物学的、薬理学的試薬の購入を予定している。
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