2018 Fiscal Year Research-status Report
上皮組織構築における細胞接着-細胞骨格インターフェースの機能解析
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15K08158
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
伊藤 雅彦 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (70270486)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 上皮 / タイトジャンクション / 細胞骨格 / 腎糸球体上皮 / 癌細胞転移 / ZO-1 / ZO-2 / ARHGEF11 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、正常な上皮の形成・維持を担う分子メカニズムの解明、ならびに、分子メカニズムの変化によって細胞および組織に生じる異常や疾患との関連性を明らかにすることを目的として、上皮の細胞間接着と細胞骨格をつなぐインターフェースとなる分子に焦点をあて、解析を行うものである。なかでも、タイトジャンクションとその構成分子ZO-1およびZO-2を中心とした解析に取り組んでいる。 【組織構造と機能に関する解析】 体内生理環境の恒常性を調節する腎臓にあって糸球体は濾過機能を有し、血液浄化・尿生成を司る必要不可欠なユニットである。濾過機能の主体と成る糸球体上皮細胞の足突起・スリット膜は非常に特殊な上皮バリア構造と考えられるが、その分子制御機構には不明な点が多く残されている。そこで、糸球体上皮細胞特異的にZO-1、ZO-2、および両分子を欠損するマウスを作製し、糸球体の構造と機能に及ぼす影響について解析を行った。 【癌細胞転移に関する解析】 上皮癌の転移には浸潤能の獲得が必要であり、これには上皮間葉転換EMTが関与するとされている。原発腫瘍内の癌細胞の一部が、分化上皮の特徴である細胞間接着や極性をEMTによって喪失して線維芽細胞様となり、脈管侵襲を経て臓器転移する。分子レベルでは、E-cadherinなど上皮特有な分子の転写が抑制され、間葉系細胞で発現する分子の転写が上昇する。また、EMTに際しては細胞骨格の配向も、上皮構造を維持するための細胞間接着に適した状態から浸潤運動に適したファイバー状に変化する。しかし、この現象がどのような分子メカニズムを介して生じているのか十分に明らかとなってはいない。この課題を解明するため、上皮接着に関わるアクチン細胞骨格調節因子として先行研究で同定したRho活性化分子ARHGEF11の癌細胞における性質と機能について解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【組織構造と機能に関する解析】 糸球体上皮細胞においてZO-1を欠損させた場合、マウス個体は生後早期よりタンパク尿を呈し、成長が著しく障害され、4週齢前後に死亡してしまった。一方、ZO-2を欠損させた場合は、タンパク尿を発症することなく、成長・生存もコントロールマウスと有意な差を示さなかったが、ZO-1とZO-2の両方を欠損させると、ZO-1単独欠損に比較して発症時期および症状の程度がより悪化していた。また、糸球体上皮細胞の微細形態を電子顕微鏡にて解析したところ、足突起の変性状態と個体症状に相関関係が認められた。したがって、腎糸球体の正常な構築と機能において、ZO-1は必須な存在であり、ZO-2は補助的に関与することが示唆された。
【癌細胞転移に関する解析】 乳癌サンプルの網羅的RNA-seqデータベースの解析から、乳癌に発現するARHGEF11には2つのisoformが存在することを見いだした。PCR解析および自ら作製したisoform特異的抗体を用いた解析により、浸潤性乳癌細胞には38番目のエクソンを含むisoformが発現し、非浸潤性乳癌細胞では当該エクソンを含まないisoformが発現することが明らかになった。2種類の異なるisoformの分子機能の違いについて生化学的に検討したところ、Rho活性化能などには差がなかったが、浸潤性癌細胞に発現するisoformでは細胞間タイト結合の構成分子ZO-1への結合能が失われており、そのために細胞間接着部位において細胞骨格を制御できないことが示唆された。浸潤性乳癌細胞に発現するisoform を欠損させたところ、細胞骨格の状態が変化して細胞突起の形成が抑制され、線維芽細胞様の形態も上皮様に変化し、浸潤能の低下を認めた。またヌードマウス皮下に移植したところ、in vivoにおける癌細胞の生存増殖能が抑制された。
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Strategy for Future Research Activity |
【組織構造と機能に関する解析】 糸球体上皮におけるZO-1、ZO-2、および両分子の欠損が、分子レベルで具体的にどのような変化を誘発し、組織の構造と機能に影響を及ぼすのか明らかにするため、遺伝子改変マウスの糸球体を単離精製して、トランスクリプトーム解析およびプロテオーム解析を行いたい。
【癌細胞転移に関する解析】 癌細胞の浸潤・転移の過程にARHGEF11分子のアイソフォーム変化が機能的に関与しうることを、培養細胞ならびにマウスへの移植実験によって確かめることができたが、実際にヒト癌で起きているか、またどのステージで起きるのか、癌の種類・由来する臓器によって違いがあるか、等々の点について今後検討したいと考えている。また、ARHGEF11分子のアイソフォーム変化が細胞内でどのような分子経路に作用し、さらには協調して、浸潤・転移能に影響を与えているのか詳しく明らかにするため、樹立したARHGEF11遺伝子破壊細胞の遺伝子発現パターンの網羅的解析を行う。あわせて、非転移性癌細胞および転移性癌細胞各々に発現するアイソフォームごとに特有な結合タンパク質の同定を試みる。これらの解析を通じて、癌細胞が転移能を獲得する際に起きるアイソフォーム変化が、分子レベルでどのような経路を通じて細胞に影響を及ぼすのか、より具体的に明らかにし、癌の診断ならびに治療への応用の可能性を探っていきたい。
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Causes of Carryover |
【理由】上皮性癌細胞が転移能を獲得する際に起きる上皮特性の変化について解析した結果、密着結合に局在し細胞骨格編成の制御に働くARHGEF11のアイソフォーム発現に特徴的な変化があることを見いだした。そこでARHGEF11の変化に伴って変動する分子について明らかにするため、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析を行うことを計画したが、専門業者に委託して行う必要があり、時間を要するため未使用額が発生した。
【使用計画】上述した、専門業者へのトランスクリプトーム解析、プロテオーム解析の委託解析にかかる経費として、未使用額を使用したい。また、免疫沈降、免疫染色のための抗体の作製および購入にあてたい。さらに、in vivo imagingなど動物実験を実施する予定であり、マウス飼育費用や解析のための必要経費に使用したい。時間的に可能であれば、得られたデータをまとめた論文の作成・掲載費用や学会発表を行うために未使用分を充てたいと考えている。
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