2016 Fiscal Year Research-status Report
メタボリックシンドロームによる臓器障害発症および進行におけるキマーゼの役割
Project/Area Number |
15K08251
|
Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
高井 真司 大阪医科大学, 医学研究科, 教授 (80288703)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | キマーゼ / メタボリックシンドローム / 高血圧 / 脂質異常症 / 脂肪肝 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
高血圧を自然発症するラットとして知られるSHR亜種のSHRSP5/Dmcrに高脂肪+高コレステロール(HFC)餌を負荷することで高血圧と脂質異常症を呈するメタボリックシンドロームを発症し、HFC餌負荷後8週後には肝臓で脂肪肝、炎症細胞浸潤、線維化、つまり、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症することを27年度の研究で確認できた。28年度はSHRSP5/Dmcrに正常餌、HFC餌+プラセボ投与、HFC餌+キマーゼ阻害薬投与を行い、NASHが形成されるHFC負荷後8週まで継時的に体重、血圧を測定し、8週の時点でキマーゼ阻害薬の影響を検討した。 具体的には、正常餌群、HFC餌+プラセボ投与群、HFC餌+キマーゼ阻害薬投与群に分けて、開始後4、8週の時点で血圧、血中脂質レベルを測定し、開始後8週の時点で血液および肝臓を用いて解析した。体重および血圧は3群間に有意差はなかったが、血中のASTおよびALTは正常餌群に比してプラセボ群で有意に増加しており、キマーゼ阻害薬はこれらの因子に影響を与えなかった。一方、総コレステロールもプラセボ群で増加したが、キマーゼ阻害薬により減少した。肝重量および肝重量/体重比は正常餌群に比してプラセボ群で増加したが、キマーゼ阻害薬により減少した。肝臓組織中の脂肪肝と線維化もプラセボ群で増加したが、キマーゼ阻害薬により減少した。組織中のキマーゼおよびTGF-β蛋白発現量はプラセボ群で増加したが、キマーゼ阻害薬により減少した。炎症に関与するMPOとMMP-9の遺伝子発現量および線維化形成に関与するTGF-βとコラーゲンの遺伝子発現量もプラセボ群で増加していたが、キマーゼ阻害薬により減少した。 これらのことより、本メタボリックシンドロームで発症するNASHにキマーゼが深く関与すること、そして、その予防にキマーゼ阻害薬が有効であることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度の目標は、高血圧と脂質異常症を伴うメタボリックシンドロームモデルで確立したNASHモデルに対するキマーゼ阻害薬の影響を解析することであった。SHRSP5/Dmcr にHFC餌を負荷することで再現性良くメタボリックシンドローム発症およびNASH発症をプラセボ群で確認できた。キマーゼ阻害薬投与は体重および血圧には影響を与えず、ASTおよびALTにも影響がなかった。その一方で、プラセボ群で有意に増加した総コレステロールはキマーゼ阻害薬により有意に抑制された。また、肝重量および肝重量/体重比が有意に抑制され、NASHの病理組織像として知られる脂肪滴、線維化、炎症細胞浸潤のすべてがキマーゼ阻害薬により抑制されていた。このことはキマーゼ阻害薬にNASHの予防効果があることを示す。プラセボ群の肝臓組織切片の解析より、脂肪滴および線維化が著しい部位においてキマーゼ発現およびその発現細胞の肥満細胞の集積やTGF-βの著しい発現が起こっていたが、キマーゼ阻害薬投与群ではキマーゼおよびTGF-βの発現や肥満細胞の集積が明らかに減少していた。キマーゼはTGF-βの活性化を介して線維化形成に関与することが示されていることより、キマーゼ阻害薬はTGF-βの活性化を阻害して肝臓線維化を予防したと考えられた。肝臓組織中の遺伝子発現量の解析では、MPOやMMP-9の遺伝子発現量がプラセボ群で増加したが、キマーゼ阻害薬投与群では両遺伝子発現量が共に有意に減少した。キマーゼはMMP-9を前駆物質より活性化することを介して炎症細胞集積に関与することが知られているので、MMP-9の活性化を阻害して炎症細胞の集積が抑制されたと考えられた。 以上のように28年度の目標である本モデルメタボリックシンドロームモデルを用いてキマーゼ阻害薬によるNASH予防効果を示すことができたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
29年度はNASHが形成されたのちにキマーゼ阻害薬を投与し、投与前の状態と比較して治療効果を検討する。また、27年度の研究成果としてHFC負荷を14週間継続すると肝不全で全例が死亡することを確認しているので、生存率に対するキマーゼ阻害薬の影響を解析する予定である。 具体的にはSHRSP5/DmcrにHFC餌を与える群を3群に分けて8週間の時点で1群の血液および肝臓の解析を行う。HFC餌を8週間負荷した場合、血中のAST、ALT、総コレステロールの上昇を伴い、肝臓組織中の脂肪滴、線維化、炎症細胞浸潤を伴うNASHが形成されることを27年度および28年度の研究成果として報告しており、この群を投与前のNASHの病態とする。残りの1群にはHFC餌を8週間投与したのちからキマーゼ阻害薬を投与して4週および8週経過した時点で血液および肝臓の解析を行い、投与前のNASHの病態と比較して治療効果を検討する。 27年度の研究成果で、SHRSP5/DmcrにHFC餌を与え続けた場合、HFC餌負荷後14週で全例のラットが肝不全に死亡することが確認されている。28年度の研究成果ではキマーゼ阻害薬の予防効果が示されており、29年度はキマーゼ阻害薬による治療効果を解析する予定であるが、キマーゼ阻害薬による生存率に対する影響も評価する予定である。具体的にはSHRSP5/DmcrにHFC餌を与える3群のうち、1群にはキマーゼ阻害薬を試験開始と同時に投与を開始し、1群にはHFC餌負荷8週経過した時点からキマーゼ阻害薬の投与を開始してプラセボ群と生存率を比較する。これらの実験を通してキマーゼ阻害薬による生存率に対する影響を明らかにする予定である。
|
Research Products
(2 results)