2015 Fiscal Year Research-status Report
脊髄後角における痛み伝達のオレキシンによる制御機構のパッチクランプ法による解析
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15K08673
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
熊本 栄一 佐賀大学, 医学部, 教授 (60136603)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 亜美 佐賀大学, 医学部, 准教授 (70336139)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | オレキシン / 膜の脱分極 / グルタミン酸自発放出促進 / 脊髄膠様質 / 成熟ラット / パッチクランプ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
オレキシンAおよびBやオキシトシンを含む視床下部ニューロンが、その神経線維を脊髄後角まで伸ばし鎮痛に働くことが知られている。我々は、以前、オキシトシンが脊髄後角で鎮痛に働く機序を明らかにしている。今年度、脊髄後角におけるオレキシンBの鎮痛作用機序を明らかにするために、成熟ラット脊髄横断スライス標本の後角第II層(膠様質)ニューロンにパッチクランプ法を適用し、-70 mVの保持膜電位において、オレキシンBの2分間の灌流投与がグルタミン酸作動性の自発性興奮性シナプス伝達に及ぼす作用を調べた。その結果、調べたニューロンの13%において、オレキシンB(0.05 μM)は、自発性興奮性シナプス伝達に影響を及ぼさずに内向き膜電流を誘起することを明らかにした。一方、23%においては、保持膜電流や自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)の振幅に影響せずに、その発生頻度を増加させた。26%では、内向き膜電流とsEPSCの発生頻度増加の両方が見られた。その内向き膜電流の平均振幅は7.3 pA、その発生頻度の増加の平均値は85 %であった。残りの38%のニューロンではオレキシンBは応答を示さなかった。それらの内向き膜電流とsEPSCの発生頻度増加は、いずれも20分の時間間隔のオレキシンBの繰り返し投与により見られた。それらのオレキシンB作用は濃度依存性で、最大効果を示す濃度の半分の値は、それぞれ0.020 μMと0.066 μMであった。以上より、オレキシンBは脊髄膠様質において、膜の脱分極を誘起すると共に、神経終末から起こるグルタミン酸の自発放出を促進することが明らかになった。その前者の作用は、オキシトシン作用と同様であったが、後者の作用はオキシトシン投与により見られなかった。今回明らかになったオレキシンBの作用は、その鎮痛作用に寄与することが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オレキシンBが自発性の興奮性シナプス伝達に及ぼす作用を定量的に明らかにしたため。
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Strategy for Future Research Activity |
オレキシンBばかりでなくオレキシンAも脊髄後角で鎮痛に働くことが知られている。予備的な実験において、オレキシンBと同様、オレキシンAも内向き膜電流を誘起すると共に、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)の発生頻度を増加させるデータを得ている。オレキシンAの作用の詳細を調べ、オレキシンBの作用と比較検討する。 Gタンパク質活性化型であるオレキシン受容体には1型と2型があり、オレキシンAは1型と2型、オレキシンBは2型を活性化することが知られている。オレキシンBとAが脊髄膠様質において1型と2型のいずれを活性化するかを薬理学的手法により明らかにする。 我々は、以前、オキシトシンの鎮痛作用は、それにより誘起される内向き膜電流(膜の脱分極)を介した自発性の抑制性シナプス伝達の促進であることを明らかにしている。オレキシンBやAは膜を脱分極するので、その伝達を促進する可能性がある。そのためオレキシンBやAがGABAおよびグリシンを介する自発性の抑制性シナプス伝達にどんな作用を及ぼすかを調べる。 我々は、以前、オキシトシンによる膜の脱分極はホスホリパーゼC活性化の結果生じたイノシトール3リン酸による細胞内カルシウム濃度増加を介したナトリウムチャネルの開口とカリウムチャネルの閉口によることを明らかにしている。そのオレキシンBやAによる膜の脱分極がどんな細胞内代謝系の活性化によるかを薬理学的手法により調べる。さらに脱分極発生のイオン機序を明らかにするために、内向き膜電流の膜電位依存性、細胞外のイオン濃度の変化による内向き膜電流の変化、イオンチャネル阻害剤が内向き膜電流に及ぼす効果などを調べる。 以上より、脊髄後角におけるオレキシンBやAの鎮痛作用機序を細胞およびイオンチャネルレベルで明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度に高額の試薬を購入する予定があったので、老朽化しているが既存の実験機器を使用することにより実験をすすめた。このことが次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は(1)オレキシン関連の試薬、(2)ラットや実験関連の消耗品(3)老朽化した実験機器の修理など、に使用する予定である。
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Research Products
(23 results)