2015 Fiscal Year Research-status Report
日本人高齢者連続剖検例を用いた疾患感受性遺伝子多型の病理フェノーム関連解析
Project/Area Number |
15K08712
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
池田 仁子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 医療情報解析研究部, 上級研究員 (20415508)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 循環器疾患 / 遺伝子多型 / PheWAS / 病理フェノーム / 関連解析 / 分子疫学 |
Outline of Annual Research Achievements |
GWAS研究で既に心筋梗塞との関連が確立している遺伝子の中から、CXCL12遺伝子多型(rs1746048, rs1801157)とCOL4A2遺伝子多型(rs3809346, rs4773144)を候補遺伝子として選出した。東京都健康長寿医療センターに登録されている1850検体の日本人高齢者連続剖検例を対象者として用い、遺伝子多型をTaqMan SNP Genotyping Assay法により判定した。ジェノタイピング判定結果は臨床病理情報と統合して、統計学的解析用のデータセットを作成した。4つの遺伝子多型と各臨床病理情報との関連は、SAS統計解析ソフトウェアを用いてロジスティック回帰分析により解析し、死亡時年齢、性別、喫煙歴、飲酒習慣で調整した。解析の結果、全ての遺伝子多型で病理診断の心筋梗塞とは統計学的に有意な関連が見られなかった。また、心筋梗塞の基礎疾患であり、中間形質である粥状硬化症の程度を半定量的に検索した粥状動脈硬化指数(PAI)と冠状動脈狭窄指数(CSI)とも統計学的に有意な関連を示さなかった。ところが、CXCL12遺伝子のrs1746048多型のT-アレルを1つ以上持つヒトで病理診断の腹部大動脈瘤の罹患リスクが統計学的有意に高かった。さらに、rs1746048多型のT-アレルを2つ持つヒトでは、心房細動ならびに閉塞性動脈硬化症の罹患リスクが統計学的有意に高いことが分かった。これらの結果から、CXCL12遺伝子のrs1746048多型は、日本人高齢者集団においては心筋梗塞以外の心血管疾患のリスク因子として働いている可能性が示唆された。本研究における病理フェノームスキャン解析(PheWAS)の結果は、臨床診断による心筋梗塞の下に埋もれていた病理診断の心血管疾患と既知の疾患関連遺伝子とのこれまで報告が無かった新たな関連を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年12月に所属先が変更になり、これに伴い研究費の移管などの手続きが発生し、一時期、旧所属機関にて消耗品などが購入できない、あるいは施設の共同機器が使用できないなどの事象が発生していた。移転先の新所属施設での事務手続き等により、研究費の使用が再開されるまで暫くの間は研究が滞っていた。現在は研究が再開されており、研究結果も出てきているので、所属先変更に伴う遅れは取り戻せており、研究は概ね順調に進捗していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、平成27年度に行った心筋梗塞以外の、心血管疾患のPheWAS解析を検討する。心血管疾患のリスク因子として欧米ではメジャーだが、日本国内ではマイナーな因子であるLp(a)遺伝子について遺伝子多型を選出し、病理フェノームや臨床検査のデータとの関連を詳細に解析する予定である。 他にも、GWAS研究やエクソ-ム解析で同定された心血管疾患(心筋梗塞以外)の疾患関連遺伝子の中から、日本人集団におけるマイナーアレル頻度(MAF)が20%以上の候補遺伝子多型を5つ選出し、1850検体の日本人高齢者連続剖検例から得たDNAをにおいて、TaqMan SNP Genotyping Assay方法により判定する。 臨床病理情報、生活習慣情報、臨床検査値などの情報とジェノタイピングデータを統合して統計学的解析用のデータセットを作成する。遺伝子多型と各フェノーム情報との関連は、SAS統計解析ソフトウェアを用いて、遺伝子多型の各モデル(ドミナントモデル、レッセシブモデル、アディティブモデル)について、ロジスティック回帰分析により解析する。全ての解析結果はP-値が0.05未満の時に統計学的に有意であると判定する。 平成27年度には、病理フェノーム情報として、病理診断の疾患の有無や、心筋梗塞の基礎疾患であり、中間形質である粥状硬化症の程度を半定量的に検索した粥状動脈硬化指数(PAI)と冠状動脈狭窄指数(CSI)などを用いて解析をおこなったが、今後はこれらに加えて、脳動脈狭窄指数(ICAI)ならびに心臓病理データ(心重量、厚み、径や弁の厚み、石灰化の有無、大動脈の肥厚度、内周など)と遺伝子多型との相互関係を詳細に解析していく。
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Causes of Carryover |
平成27年11月末日をもって東京医科歯科大学を任期満了に伴い退職し、平成28年12月1日より国立国際医療研究センターに着任した。この移動に伴い旧所属機関から新所属施設へ研究費の移管事務手続きがスムーズに行えるよう研究費の使用を暫くの間休止していた。平成28年12月1日の国立国際医療研究センターへの着任以降も、移管した研究費の入金確認がとれるまで、及び新所属施設の研究費使用許可が下りるまで研究費が使用できなかった。また東京医科歯科大学で引き続き共同研究施設等を使用して本研究の解析が行えるよう非常勤講師の委嘱手続き等を行っていたため、研究の再開までに時間がかかってしまった。その後、研究を再開したが、平成27年度分の経費を全て使用して研究を推進するには時間が足りず、経費の一部が次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に購入できなかった未解析分の遺伝子多型解析用のプライマーセット及びその関連試薬の購入に使用予定である。
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