2017 Fiscal Year Research-status Report
増加する川崎病の発症促進因子と抑制因子を明らかにする地域ベースの症例対照研究
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15K08815
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
北野 尚美 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (40316097)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 啓之 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (80196865)
西尾 信宏 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (00278631) [Withdrawn]
垣本 信幸 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (90614412)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 川崎病 / 記述疫学 / 性比 / 好発年齢 / 時間集積性 / 季節性 / 環境要因 / 感染性因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
川崎病の罹患者は日本で年間1万5千人を超えて罹患率は第一位である。川崎病は乳幼児に好発する全身性の炎症性疾患でその病態は汎血管炎であり、特に冠動脈瘤を形成することが問題である。未治療の場合には十数%で冠動脈後遺症を残すが、免疫グロブリン大量療法は冠動脈拡大・瘤形成の抑止効果があり標準的な治療法である。重症例の治療ガイドラインもあるが、未だ巨大瘤の発生を制圧出来ていない。川崎病の病因が不明で発症の予防法がない現状では、その発症の促進因子や抑制因子の同定と、発症後の冠動脈瘤発生の防止が重要である。先行研究によって川崎病の発症や重症例に関わるいくつかの遺伝素因が明らかとなったものの川崎病の疫学的特徴である時間集積性と地域集積性や、性差について十分に説明できる結果は得られていない。 今年度は、特定地域で17年間に発症した川崎病1945例について発症時年齢と性別との関連および年齢と季節性の特徴について解析を進めた。その結果2つの知見を得た。まず、年齢層が高くなるにつれ罹患者の男女比が小さくなることを見出した。次に、日本では川崎病の発症は冬に多く夏にも比較的多いことがわかっていたが、本研究では罹患者の年齢と川崎病発症の季節性との関連について解析を行い、低年齢層では高年齢層に比して有意に夏に多くの罹患を認めて発症時年齢と発症の季節に関連があることを示唆する結果を得た。先行研究によって川崎病の発症に感染性因子の関与が示唆されていることと矛盾しない結果であり、発症に関わる環境要因の探索に役立つ知見である。研究成果は論文にまとめて学術雑誌に投稿した。 一方で、川崎病発症に関わる細菌などの同定を目的に、分担研究者らは実験的アプローチを進めた。治療目的で入院した川崎病15症例から、入院時に咽頭や肛門からぬぐい液を採取した。それぞれ液体培地で培養を行って培養された細菌についてDNA抽出を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
救急診療や夜間・休日診療を介して入院した川崎病症例が多かったため対照の設定が出来なかったこと、ほぼ全例が発熱で発症したため前医受診歴があり抗生物質の投与を受けていたこと、生命に危険がある冠動脈瘤が発生するおそれがある疾患であることの説明で家族と医療者の緊張が高まる状況下で研究協力説明のための余裕がない場面が比較的多くあったこと、標準的治療で用いる免疫グロブリン製剤が血液製剤であるため大量療法の開始にあたって同意取得等で時間を必要としたこと、ハイリスクと判断した場合に確実に奏功する治療法がない状況下で一部は医師主導治験が実施中であったこと。実際の診療場面においては、川崎病診断時には多くの困難を伴う課題が一挙に押し寄せ、それらに迅速に対応する必要があり、医師ー患者間の関係性にも緊張が高まることもしばしば観察された。乳幼児の急性熱性疾患の特徴に加え、現在の小児救急医療体制にあっては、疫学研究として妥当な対照群を選定することは容易でなく、症例対照研究の実施は困難であった。 一方、症例群からの生体試料の採取と、それらを用いた感染性因子の検討のための実験的アプローチを進めた。分析疫学によって川崎病発症に関わる促進因子と抑制因子を調べるため、日本における大規模前向きコホート研究のデータの利用について、手順を踏んで承認申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに科研費で実施してきた研究において、特定地域(和歌山県全域)で悉皆性と連続性のある症例コホートのデータベースを構築しており、現在までに約2千症例についてデータベースが完成している。それを用いて、川崎病で冠動脈瘤を形成した症例の特徴と、その促進因子あるいは抑制因子について分析を進める。特に、患者の基本属性である性別と発症時年齢を組み合わせて独自に作成したカテゴリ分類を用いて、冠動脈瘤形成のリスクについて解析を進め、急性期治療の事前に冠動脈瘤のリスクを予測して、より的確な病状説明と治療法の選択等に役立てることが可能な成果を目指す。 前向きコホート研究のデータを用いて川崎病発症の促進と抑制に関わる要因を調べる計画(承認申請中)については、承認が得られた段階で、環境省が2011年から実施中の10万組の妊娠中の母親とその出生児が参加した「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」において採取された情報から作成されたデータセットを用いて個別課題の研究実施が可能となる。母乳による育児と川崎病発症との関連、親のアレルギー素因と川崎病発症との関連について研究実施の承認を希望している状況にある。 一方で、分担研究者らは、川崎病症例の生体試料を用いた実験的アプローチによって、その発症に関わる環境要因(主に細菌)の検索を進めることを計画している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、主にこれまでの研究成果の公表に充当する予定である。具体的には、次年度に開催される国際学会等において研究結果公表のための演題が採択され、学会参加費とそれに伴う旅費の支出を見込んでいる。また、研究成果を海外の学術雑誌に投稿するための論文執筆中であるため、英文校正や投稿に係る料金の支出を見込んでいる。また、症例から採取した生体試料を用いた発症に関わる感染性因子探索のための実験的アプローチも継続して実施する予定がある。
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Research Products
(5 results)