2016 Fiscal Year Research-status Report
WT1遺伝子の癌遺伝子機能の新展開:白血病細胞の代謝シフトとゲノム安定性の維持
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15K09476
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
尾路 祐介 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (20294100)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | WT1 / 白血病 / 分子標的治療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では白血病および様々な固形癌に過剰発現するWT1遺伝子の腫瘍細胞の代謝およびゲノム安定性維持における機能の分子学的機序を、それらの経路において重要な役割を果たすWT1タンパクとbinding partnerの相互作用に着目して明確にすることを目的としている。平成28年度はこれまでに明らかにした、WT1タンパクと直接結合して癌細胞の生存に重要な役割を果たすエネルギー代謝因子Y(仮名)とWT1タンパクの相互作用を阻害する低分子化合物を同定するために、代謝因子Yとビオチン化WT1由来ペプチドAを用いて、スクリーニングを行った。低分子化合物ライブラリー約6000化合物についてスクリーニングを行った結果、エネルギー代謝因子YとWT1ペプチドAの結合を阻害する複数の化合物を同定した。これらはWT1タンパクとエネルギー代謝因子Yの結合を標的とした白血病に対する分子標的治療法の開発につながる可能性がある。 さらに我々はWT1タンパクが様々な代謝関連因子と結合して白血病細胞の生存に関与している可能性を考え、白血病細胞の細胞質に局在し、WT1タンパクと結合するタンパクを探索した結果、これまでに報告のない新規のWT1結合タンパクの候補Z(仮名)を同定することができた。さらにこの新規WT1結合タンパクと結合するWT1由来ペプチドBを白血病細胞に導入すると、効率よく細胞死を誘導することができた。このWT1由来ペプチドBはエネルギー代謝因子Yには結合しないため、WT1タンパクのWT1由来ペプチドBに該当する部位とタンパクZの結合は白血病に対する分子標的薬開発の新たな標的になる可能性がある。 また、WT1タンパクは白血病のみならず、様々な固形癌においても過剰高発現しているので、今回の成果は多くの悪性腫瘍に対して適応可能な分子標的治療法の開発につながる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の特色は、WT1タンパクと腫瘍細胞の代謝やゲノム安定性の維持において重要な役割を果たすbinding partnerの相互作用に着目して、その詳細を明確にするとともにその相互作用を標的とした白血病に対する分子標的治療法の開発を目指すことにある。 H28年度は、WT1タンパクと直接結合して癌細胞の生存に重要な役割を果たすエネルギー代謝因子YとWT1タンパクの相互作用を阻害する低分子化合物のスクリーニングを行い、その結果、結合を阻害する複数の化合物を同定した。これらの成果はWT1タンパクとエネルギー代謝因子Yの結合を標的とした白血病および固形癌に対する分子標的治療法の開発につながる可能性があり、本研究は順調に推移している。 さらに今回我々が新たに同定した新規のWT1結合タンパクの候補Z(仮名)は白血病細胞の細胞質に局在し、この新規WT1結合タンパクと結合するWT1由来ペプチドBを白血病細胞に導入すると、効率よく細胞死を誘導することができた。このことから、従来核に局在し転写因子として機能すると考えられてきたWT1タンパクの新たな癌遺伝子としての機能を明らかにする端緒になる可能性がある。さらに、タンパクZとWT1タンパクの結合が新たな分子標的となる可能性が示されたことから、これに関しても、WT1を標的とする腫瘍特異的な分子標的治療法の開発につながる可能性があり、本研究は順調に推移していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
(WT1の相互作用を標的とした分子標的治療法の開発) H28年度にはエネルギー代謝因子YとWT1ペプチドAの結合を阻害する複数の低分子化合物を同定できた。H29年度は、これらの複数の低分子化合物がWT1タンパクとエネルギー代謝因子Yの結合を阻害し、白血病細胞に細胞死を誘導するかを検証する。結合阻害活性を示し、効率よく白血病細胞に細胞死を誘導できた低分子化合物については、これらをリード化合物にしてWT1を標的にした分子標的治療法の開発を進める。さらに、WT1は白血病細胞ばかりではなく固形癌細胞においても過剰発現しているため、これらのWT1を発現する固形癌細胞においても細胞死を誘導できるか検討する。さらに、H28年度に新たなWT1結合分子として同定したタンパクZとWT1タンパクの結合についても、WT1の結合領域である可能性のある部分配列のペプチドの白血病細胞への導入により効率よく細胞死が誘導されるため、タンパクZとWT1タンパクの結合が分子標的治療法の標的になりうるか検討する。
(RNA代謝-タンパク合成系におけるWT1遺伝子の役割) WT1タンパクがスプライシングなどのRNAの代謝に関与し、さらにWT1タンパクが核とタンパク合成の場であるポリソームとの間をシャトルしうることが報告されている。これらの研究結果から、WT1タンパクが腫瘍細胞内で結合したRNAを核からリボソームへと運搬しタンパク合成の調節に関与している可能性が考えられるため、WT1の新たな癌遺伝子機能として、WT1タンパクが直接タンパク合成システムの構成因子と複合体を形成している可能性がないか探索する。WT1タンパクとタンパク合成システムの構成因子の結合が明らかになった場合はその意義についてさらに解析を進める。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Association of WT1 IgG antibody against WT1 peptide with prolonged survival in glioblastoma multiforme patients vaccinated with WT1 peptide.2016
Author(s)
Oji Y, Hashimoto N, Tsuboi A, Murakami Y, Iwai M, Kagawa N, Chiba Y, Izumoto S, Elisseeva O, Ichinohasama R, Sakamoto J, Morita S, Nakajima H, Takashima S, Nakae Y, Nakata J, Kawakami M, Nishida S, Hosen N, Fujiki F, Morimoto S, Adachi M, Iwamoto M, Oka Y, Yoshimine T, Sugiyama H.
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Journal Title
Int J Cancer
Volume: 139
Pages: 1391-401
DOI
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[Journal Article] Syndecan-4 as a biomarker to predict clinical outcome for glioblastoma multiforme treated with WT1 peptide vaccine.2016
Author(s)
Takashima S, Oka Y, Fujiki F, Morimoto S, Nakajima H, Nakae Y, Nakata J, Nishida S, Hosen N, Tatsumi N, Mizuguchi K, Hashimoto N, Oji Y, Tsuboi A, Kumanogoh A, Sugiyama H.
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Journal Title
Future Sci OA
Volume: 2
Pages: FSO96
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[Journal Article] A Zbtb7a proto-oncogene as a novel target for miR-125a.2016
Author(s)
Hojo N, Tatsumi N, Moriguchi N, Matsumura A, Morimoto S, Nakata J, Fujiki F, Nishida S, Nakajima H, Tsuboi A, Oka Y, Hosen N, Hayashi S, Sugiyama H, Oji Y.
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Journal Title
Mol Carcinog
Volume: 55
Pages: 2001-2009
DOI