2015 Fiscal Year Research-status Report
口腔由来多剤耐性黄色ブドウ球菌の感染症予防法開発に向けた基礎研究
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15K11017
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
松尾 美樹 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 准教授 (20527048)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大貝 悠一 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (40511259)
小松澤 均 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 教授 (90253088)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 黄色ブドウ球菌 / 口腔定着 |
Outline of Annual Research Achievements |
黄色ブドウ球菌は、化膿性疾患や食中毒などを引き起こす病原性細菌であるが、一方でヒト常在菌の一つでもあり、口腔内からも分離される。本菌は多様な病原性因子を持つため、口腔に定着した黄色ブドウ球菌は全身疾患である誤嚥性肺炎や敗血症などの重篤な疾患を引き起こす。さらに、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) やバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌 (VRSA) などの多剤耐性菌も知られており、抗菌剤による治療が困難である。本研究は、口腔内黄色ブドウ球菌の中でも多剤耐性黄色ブドウ球菌の口腔内定着阻害法開発を目標とし、そのための基礎研究を行うことが目的である。本研究により得られた結果を、多剤耐性黄色ブドウ球菌の口腔内定着阻害法開発に結びつけることで、術中の敗血症や高齢者における誤嚥性肺炎などの予防への貢献が期待できると考える。そこで、多剤耐性黄色ブドウ球菌の口腔内定着阻害法開発に向けて、定着メカニズムと抗菌性因子探索の両方向からの研究により、黄色ブドウ球菌の口腔内定着阻害法の開発を目指すことが本研究の目標である。具体的には、I. 多剤耐性黄色ブドウ球菌の口腔定着機構解明、2. 新規抗菌剤開発に向けての抗菌性因子・MRSA阻害因子の同定の2つについて検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、表皮剥脱毒素のひとつであるETB産生性黄色ブドウ球菌TY4株が産生する抗菌性因子に対する事故体制に関する研究を行った。研究の目的としては、伝染性膿痂疹 (Impetigo) やその全身型であるブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(Staphylococcal scaled skin syndrome, SSSS) などの化膿性疾患を惹起するETB産生菌が抗菌性因子であるバクテリオシンC55を産生することが過去の報告から明らかになっており、上記化膿性疾患を引き起こすに当たりTY4株の産生するC55が、皮膚常在細菌に対し抗菌作用を発揮することで自身の感染性に有利に働く可能性があると考えた。そこで、TY4株のETBをコードする遺伝子を持つプラスミド上にバクテリオシン産生に関与する遺伝子群を見出し、その近隣領域に他のバクテリオシン産生菌の持つ自己耐性遺伝子と相同性の高い遺伝子が存在することが明らかになった。そこで、TY4株からプラスミドを脱落させたTY4(-)株にて予想される自己耐性遺伝子を導入した結果、TY4(-)株では消失したC55バクテリオシンに対する耐性が回復することが明らかになった。また、今回明らかにした自己耐性遺伝子は、C55産生株との共存に必須であることも明らかにした。本研究では、黄色ブドウ球菌が生体への感染を確立する上で自己耐性遺伝子を保有することが重要であることを見出したと同時に、本菌の生体への感染を予防する上で自己耐性遺伝子が阻害剤のターゲット候補になりうることを示唆している。本研究結果は2016年発行のMicrobiol Immunol. にて論文発表を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
高病原性型黄色ブドウ球菌の生体への感染予防の標的因子としてC55バクテリオシンに対する自己耐性因子が候補として挙げられることを見出した。以前の研究で、バクテリオシンを産生しないStreptococcus mutansや黄色ブドウ球菌が、他菌の産生するバクテリオシンに対し、細菌特有の情報伝達機構である二成分制御系を介して耐性機構を獲得していることを明らかにしている。二成分制御系因子に加え、新たな自己耐性因子が、黄色ブドウ球菌の生体への定着阻害のための重要な因子である可能性を見出した。また、黄色ブドウ球菌の定着阻害因子候補を見出す目的で、黄色ブドウ球菌と同様生体に常在する化膿レンサ球菌についての検証も行っている。化膿レンサ球菌と黄色ブドウ球菌は、属性は異なるものの、病原性が高い生体常在細菌という共通点を持ち、また、割合は低いものの、黄色ブドウ球菌同様口腔内にも化膿レンサ球菌は認められる。本菌も黄色ブドウ球菌同様バクテリオシン産生性を持つ菌株の報告がなされており、また二成分制御系因子を保有している。そこで、名古屋市立大学と共同研究を行い、化膿レンサ球菌のバクテリオシンに対する二成分制御系因子のかかわりについて検証を行っている。一方、黄色ブドウ球菌が口腔へ常在化を果たすに当たり、口腔内常在細菌が産生するバクテリオシンに常にさらされる。これまで黄色ブドウ球菌の二成分制御系因子が口腔常在細菌のバクテリオシンに対する耐性獲得に関与することを見出しているが、現在進行中の研究で、黄色ブドウ球菌は長期間バクテリオシンにさらされることで、バクテリオシンに対する耐性化を獲得し、耐性菌が出現することが明らかになっている。現在はバクテリオシン耐性菌の耐性化メカニズムについての研究も行っており、今後黄色ブドウ球菌の口腔内における動態を明らかにすることで、定着阻害に向けた研究を加速させていく予定である。
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