2017 Fiscal Year Research-status Report
酸感受性イオンチャネルを介した新しい味覚受容機構の解明
Project/Area Number |
15K11049
|
Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
植田 高史 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (90244540)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 泰宏 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (10534745)
鵜川 眞也 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (20326135)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 口腔解剖学 / 味覚受容 / 酸感受性イオンチャネル / プロトン / P2X2/3 ATP受容体 / 膝神経節 / タンパク質発現解析 / 機能解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、酸感受性イオンチャネルの一つであるASIC1aが味覚路の膝神経節(geniculate ganglia, GG)を構成するP2X2/3受容体陽性ニューロンに豊富に発現していることを見出した。今年度は昨年確立した初代培養GGニューロンを用いたカルシウムメージング法による解析を進め、ASIC1aのアクチベーターである酸(プロトン、水素イオン)のATP応答を修飾するパターンについてn数を増やし観察した。加えてP2X3の特異的なブロッカーであるAF-353を併用して、P2X3を単独に発現しているGGニューロンではプロトンによりATP応答が減弱する一方、P2X2とP2X3を共発現しているGGニューロンではプロトンによりATP応答は減弱せず、あるものはむしろ増強するという特性を見出した。この特性の決定因子についてHEK293T細胞の強制発現系解析を行い、ASIC1aよりはむしろP2Xのサブタイプに依存していることを突き止めた。一方、本年度はASIC1a-KO (ASIC1aノックアウト)、ASIC1b-KO, ASIC1a/1b-WKO (ASIC1a/1bダブルノックアウト)のマウスを使用した形態学解析も実施した。野生型マウスの味蕾内に観察されたASIC1免疫陽性反応は、ASIC1b-KOマウスで観察できたが、ASIC1a-KOマウスでは消失しており、味蕾内に発現しているのはASIC1aであることが裏付けられた。さらに本年度から1)ASIC1aが味蕾内味細胞に発現しているか、2)発現しているとすればどの味細胞に発現しているかについての実験を開始しており、ASIC1抗体と二重染色が可能な相性の良い味細胞のマーカー(GLAST, TIR3, TRPM5, gustducin, syntaxin1, cabonic anhydrase 4, NCAM, PKD2L1, ENaCαなど)との共存について検討を重ねている。近年味覚受容体は味蕾以外の消化器系にも見出されているので、酸感受性イオンチャネルの別のファミリー分子であるASIC4については腹部消化菅での解析も試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
分子生物学的及び形態学的な解析については、KOマウスも含め予定どおりスムーズにデータを得ることができた。この実験により、少なくともASIC1aが味覚伝達経路に発現していることが明らかとなり、興味深いことに、プロトン刺激によりカルシウムを透過させ、かつ、シナプス伝達に重要なASIC1aが膝神経節(GG)のP2X2/3陽性ニューロンに優位に発現しているとの新知見が得られた。さらにGGニューロンを用いたカルシウムイメージングの実験系も先行研究 [Vandenbeuch et al., J Physiol, 593.5, 111 3-1125, 2015; Larson et al., J Neurosci, 35(48), 15984-15995, 2015]と同程度のATP及び5-HT応答反応を安定して観察できるようになり、プロトンのP2Xと5-HT受容体に対する作用の違いも確認できた。一方、味覚分野のこれまでの経緯から、ASICは味蕾内の酸味を受容するIII型味細胞にも発現しているのではないかとの指摘もあるが、光学顕微鏡レベルでも電子顕微鏡レベルでも使用する抗体に不具合があり、それを支持するまでの明確な実験結果を得ていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は膝神経節(GG)ニューロンに発現するASIC1a以外のASICサブタイプ (1b, 2b, 3) についても解析する予定であったが、色々な市販抗体を検討した結果、やはりこれらASICについては良い抗体のないことが明らかとなった。ただASIC3についてはASIC3ノックインマウスが使用できるようになったので、少なくともASIC3については今後解析を行う予定である。味蕾内の味細胞にASICが発現しているか否かについては、現在までにネガティブな結果しか得られていない。電子顕微鏡レベルで抗体が機能しないなど、技術的な問題もあるので、さらに様々な条件を実施検討して光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルでの形態学解析を試みる。味覚研究分野では、酸味はIII型味細胞が感知し、それによるシナプス小胞より放出されるセロトニン(5-HT)がGGニューロンに発現する5-HT3受容体を活性化してその情報が脳に伝達されると考えられている。これまでの本研究結果からASIC1aはGGニューロンにおいてその神経伝達を修飾していることが示唆される一方、ASIC1a陽性神経線維は味蕾に限局しており、これが真の酸味受容体の可能性も想定できるので、これについても残り一年の研究延長期間で調査していきたい。少なくとも、味蕾には小胞型モノアミン輸送体であるVMAT2が発現していることから、シナプス小胞内に酸(プロトン)は蓄えられ、5-HT放出の際同時に放出される。さらに我々の研究で、酸がGGニューロンの応答に様々な影響を与えていることが明らかとなったので、ASICのデータとは別にこのストーリーでも論文投稿を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
1)様々な種類のASICのノックアウトマウスやノックインマウスが使えるまでに予定より時間がかかったため。 2)大きな備品(味覚嗜好のリッキングカウント行動解析用実験システム)の購入を再検討し、その予算を残しておいたため。
|