2016 Fiscal Year Research-status Report
下歯槽神経損傷後の知覚回復メカニズムにおける加齢的変化の解析
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15K11269
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
代田 達夫 昭和大学, 歯学部, 教授 (60235760)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
韓 仁陽 (清本聖文) 昭和大学, 歯学部, 助教 (00712556)
近藤 誠二 昭和大学, 歯学部, 准教授 (10432634)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 下歯槽神経 / マイクログリア / アストログリア / 機械的痛覚過敏 / 神経因性疼痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
下顎枝矢状分割術後の下唇の知覚障害は,本手術で高頻度に生じる合併症の一つである。本手術に伴うこのような知覚障害の約90%は術後約6か月までに回復すると言われている。しかし,下唇部の触感覚の検査では正常値を示すにもかかわらず,自覚症状として下唇の知覚低下,痛覚過敏,あるいは灼熱感などの異常感覚を訴える患者は少なくない。また,このような知覚異常は難治性で慢性化に推移する傾向があるが,その発症のメカニズムは明らかではない。そこで本研究では,下歯槽神経の結紮による下歯槽神経損傷モデルラットを製作し,オトガイ部皮膚周囲の機械的痛覚過敏の経日的変化および中枢神経系の変化を観察することで,オトガイ部皮膚の機械的痛覚過敏の慢性推移のメカニズムについて検討した。 ラットの下歯槽神経を縫合糸で結紮することで下歯槽神経に損傷を加え,術後の経日的な行動学的変化を42日間観察した。また,三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)におけるマイクログリア,アストログリアの活性化を解析するとともに,c-fos抗体陽性細胞の発現量を定量的に評価してニューロンの興奮状態を解析した。実験群の逃避閾値は,術後5日目では対照群と比較して最も有意に低下し,その後経時的な回復傾向を認めた。また,実験群のVc領域では術後5日目でマイクログリアおよびアストログリアの活性化が認められ,c-fos抗体陽性細胞の発現量も有意に高い値を示した。しかし,42日目では実験群と対照群の逃避閾値には有意差はなく,また,マイクログリア,アストロサイト,c-fos抗体陽性細胞の発現量ついても有意差を認めなかった。 下歯槽神経損傷に伴うオトガイ部皮膚の機械的痛覚過敏の経日的変化には中枢神経系におけるマイクログリア-アストログリア-ニューロン間の相互作用が関与している可能性があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
下歯槽神経結紮における損傷モデルラットのオトガイ部皮膚における機械刺激の逃避反射閾値、延髄及び上部頸髄におけるマイクログリア、アストロサイト、ニューロンの活性化について検討し、以下の結論を得ることができた。即ち,下歯槽神経損傷によってオトガイ部皮膚領域の機械的刺激に対する逃避反射閾値は有意に低下する。また痛覚過敏は慢性化する傾向を示す。また,下歯槽神経損傷に伴い、延髄および上部頸髄にて大きな細胞体と太い突起を有する活性型マイクログリアが有意に増加した。さらに,延髄・上部頸髄にてアストロサイトの活性化が観察された。オトガイ部皮膚の機械的逃避反射閾値の変化に並行して活性化が確認できた。 以上の結果を得ることができたため,概ね研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
実験動物の下歯槽神経結紮部にbFGF, CNTFおよびbFGFとCNTFの両方をそれぞれ投与して,知覚再生に対する効果を行動学,組織学,免疫組織学および神経生理学的に比較検討する。そして知覚再生にもっとも効果のある成長因子の投与方法を決定する。 また,アストロサイトの活性化を抑制する薬剤として、サイトカイン代謝阻害剤であるフルオロケトレートまたは選択的JNK阻害剤SP600125を適応した際の過去の実験データで示されているため,アストロサイトの活性化を抑制が痛覚過敏の抑制に対する有効性を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた実験が遅延し,購入を予定していた実験動物,免疫染色に必要な抗体,その他の薬品・器材を予定通り購入しなかったこと,海外出張等の旅費を申請しなかったこと等により繰越金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験をさらに行う予定で,実験動物代,免疫染色に必要な抗体,薬品・器材を購入する予定であり,また,学会出張の旅費などで使用する予定である。
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