2015 Fiscal Year Research-status Report
植物におけるシクロブタンピリミジン二量体の修復と宇宙放射線耐性に関する研究
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15K11912
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
寺西 美佳 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10333832)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日出間 純 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (20250855)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 宇宙放射線 / 植物 / シクロブタン型ピリミジン二量体 / DNA損傷 / 放射線耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
<1: 紫外線以外の放射線により誘発されるCPDが植物に与える影響>野生型イネ品種ササニシキ、および野生型ゼニゴケ系統Tak1に対して、エックス線を照射し、誘発されたDNA損傷をCPD・鎖切断に分けて定量解析した。 <2: CPD光回復酵素の配列とリン酸化修飾の植物種間差が酵素のオルガネラ移行に与える影響>ゼニゴケにおいて核・ミトコンドリア・葉緑体の各オルガネラDNAの修復速度を測定するため、野生型ゼニゴケ系統Tak1に対し、線量を変えて紫外線を照射した。抽出したゲノムDNAを鋳型とし、定量PCR法にて、それぞれのオルガネラDNAに誘発されたDNA損傷数を解析した。またゼニゴケCPD光回復酵素のN末端配列約100アミノ酸と類似した配列が他の生物に見られるかを解析したところ、現在のところ相同性の高い配列は見出せなかった。しかしこの配列は、葉緑体移行性に関与することが示唆された。さらに、イネCPD光回復酵素のリン酸化修飾部位を非リン酸化型・偽リン酸化型に変異した遺伝子を、CPD光回復酵素を欠損したイネ系統に導入した。 <3: オルガネラDNAのCPD修復活性が植物の放射線耐性に与える影響>CPD光回復酵素の核移行シグナルに変異をもち、かつN末端に葉緑体移行シグナル、またはミトコンドリア移行シグナルを持つタンパク質を発現する遺伝子をシロイヌナズナに導入した。後代世代を獲得し、核・ミトコンドリア・葉緑体でのCPD修復速度を解析した。 <4: 放射線照射がゼニゴケのゲノムDNAに与える影響解析>相同組換え検出マーカーを導入したゼニゴケ系統に対し、紫外線およびX線を照射し、GUS活性により生じるスポット数を算出することで相同組換え頻度を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<1: 紫外線以外の放射線により誘発されるCPDが植物に与える影響>当初の計画に沿い誘発される損傷数を定量し、次の解析に用いるに適した線量をおおむね明らかにすることができたため、おおむね順調に進展していると考えられる。 <2: CPD光回復酵素の配列とリン酸化修飾の植物種間差が酵素のオルガネラ移行に与える影響>ゼニゴケのオルガネラDNAにおけるCPD修復活性に関して、定量PCR法を用いた解析を行ったが、測定値が安定しないため、今後はサザンブロット法も併用し、修復活性を測定する必要があると考えられる。イネCPD光回復酵素のリン酸化修飾部位に変異を導入したイネ系統に関しては、当初の計画通りに形質転換体植物を作製し、後代世代の種子を育成中であるため、順調に進展していると考えられる。 <3: オルガネラDNAのCPD修復活性が植物の放射線耐性に与える影響>当初の計画に沿った組換え体シロイヌナズナを作製したため、順調に進展していると考えられる。 <4: 放射線照射がゼニゴケのゲノムDNAに与える影響解析>相同組換え検出マーカーを導入したゼニゴケ系統に対し、紫外線およびX線を照射したが、組換え頻度が低く、組換え頻度を算出するために必要な線量では、植物体の生育抑制程度が大きく、組換え頻度と生育抑制を比較することが難しいことが分かった。この点において、実施内容は当初の計画通りであったが、今後の方針を検討する必要があると考えられた。 以上のことから、研究全般としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
<1: 紫外線以外の放射線により誘発されるCPDが植物に与える影響>今後はCPD光回復酵素の欠損系統や過剰発現系統を用い、エックス線照射により誘発されるDNA損傷数と、生育阻害効果を比較解析することで、エックス線により誘発される鎖切断や酸化損傷などのDNA損傷とCPDの複合効果が植物の生育に与える影響を解析する。 <2: CPD光回復酵素の配列とリン酸化修飾の植物種間差が酵素のオルガネラ移行に与える影響>基部陸上植物であるゼニゴケCPD光回復酵素の特徴的に見られるN末端配列が、葉緑体移行性に関与するのかを明らかにする。さらに他の植物においては同様の配列が見られないため、進化の過程で葉緑体移行性にどのような変化が見られたのか、他の植物では酵素のいずれの部位を使用して葉緑体に移行しているのか、また葉緑体移行性が紫外線・放射線耐性に与える影響程度を解析する。 <3: オルガネラDNAのCPD修復活性が植物の放射線耐性に与える影響>上記2の研究と共に、核・ミトコンドリア・葉緑体のいずれのCPD修復が植物の生育に重要であるかを解析する。 <4: 放射線照射がゼニゴケのゲノムDNAに与える影響解析>相同組換え頻度と植物生育を比較することが困難であったため、DNA損傷の種類と損傷数と相同組換え程度を比較し、いずれの損傷が相同組換えに寄与しているのかを解析する。
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Causes of Carryover |
DNA損傷の定量や組換え体の作製が順調に進み、試薬や消耗品の購入が小額で済んだため、当初計画よりも物品費の出費が少なくなった。また、人件費・謝金として200,000円を計上したが、組換え体の作製が順調に進み、少ない労力で目的物を得ることができ、また適当な人材が見つからなかったため、人件費・謝金を使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に学会発表数と論文発表数を増やす。また当初計画を発展させ、エックス線のみではなく、ガンマ線照射を行うことを検討しており、ガンマ線照射施設(群馬県高崎市)への旅費として使用することも計画している。
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