2017 Fiscal Year Research-status Report
広域災害支援におけるフロネシスの継承に関する学際的研究~新潟県を事例として
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15K11928
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
高橋 若菜 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (90360776)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田口 卓臣 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (60515881) [Withdrawn]
小池 由佳 新潟県立大学, 人間生活学部, 准教授 (90352781)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 広域災害支援 / 原発避難 / 新潟県 / フロネシス / 経験知 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年の東日本大震災後、被災者の避難は全国にわたり、とりわけ隣県新潟県には大規模な避難と、それに伴う広域災害支援があった。新潟県内の行政組織や中間支援組織、子ども支援組織は、現状の重大性と深刻性を深く認識し、それぞれに多様な苦境におかれた避難者たちへ深い共感を寄せ、創発的な支援を展開した。こうした支援の在り方は、アクター(支援者)たちが、過去の災害等により蓄積された経験知や暗黙知(フロネシス)を活かしたからではないかと考えられた。この仮説の検証を行うことが、本研究の目的であった。 はたして検証結果は、仮説どおりであった。子育てグループが避難者に寄り添ったのは、子育て上の多様なニーズに応えるという経験知がそのまま活用されたからに他ならない。また、中越地震等の経験から自治体・中間支援組織に蓄積された様々な暗黙知が、広域災害支援の展開に遺憾なく発揮されていた。平成28年度までに、これらの記録をオーラル・ヒストリー調にまとめ、公表することができた。 一連の作業の中で、しばしば聞かれたのは、先例がない事態に戸惑ったというアクター(支援者)たちの声だった。東日本大震災に伴う広域避難は、原発事故との交差の中での先例のない歴史的現象である。このことを念頭に置くならば、支援に内在するフロネシスだけを描くのではなく、被支援者たる広域避難者の様相を、支援との交差の中で、包括的に描くこともまた重要である。こうした要請は、アクター(支援者)たちからも寄せられ、将来さらなるフロネシスを後世につなぐためにも、重要なタスクと認識した。 そこで29年度は、原発避難の全体像把握とつとめた。具体的には、大人・子どもを含む原発避難者へのインタビューを行うとともに、原発避難者新潟訴訟弁護団に蓄積された資料の解析を行った。さらに、調査結果は、県や原発避難者新潟訴訟弁護団といったアクターにも一部還元した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、子育てグループや、自治体・中間支援組織に蓄積された様々な暗黙知が、広域災害支援の展開に遺憾なく発揮されていたことを、オーラル・ヒストリー調に一連の書籍にとりまとめ公表した点で、一定の研究目的を達成している。 それらに加えて、平成29年度は、被害の総体と支援との交差の解明を、アクターと協働で行うことに注力し、成果の一部を、フロネシスが蓄積されているアクター(=支援者)たちに還元した。こうした記録を作成する上で、追加資金を用いて、内外の幅広い有識者たちとも協働した。 単なる支援だけでなく、避難の総体との関係性について記録を残したこと、単なる学術的貢献を超え、現実社会に知見を提供することができたこと、追加資金を得て学内外の有識者たちと幅広く協働できたこと、の3点において、当初の予定を超えて成果があったと考えている。 より具体的には、原発避難者新潟訴訟弁護団(=新潟水俣病被害者救済に尽力した弁護士たちの多くが参加)と協働した。237世帯による原発避難者訴訟は日本最大級であり、その陳述書は学術的、歴史的にも貴重な史料と考えた弁護団は、本研究代表者らに、活用方法について打診をした。そこで弁護団と協働で、陳述書を個人を特定できない統計データに変換させ、被害の多様性・深刻性・普遍性の量的分析に努め、意見書にまとめて提出した。 次に新潟県(過去の災害体験を活かして広域避難者支援を展開)とも協働した。新潟県は、原発事故が及ぼす影響の徹底的検証の一環に着手している。本研究代表者らは、そのうち、「福島第一原発事故による避難生活の実態を明らかにするテーマ別調査」として、「子育て世帯の避難生活に関する量的・質的調査」を引き受けた。追加資金を得て、学内外の有識者らと研究チームを組み、大規模な質的調査も行った、調査成果は、弁護団の協力も得ながら、報告書にまとめて県へ提出し、会議での発表も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、行政団体や中間支援組織におけるフロネシスについて、一定程度研究成果として取りまとめ、公刊している。また、被災者状況の多様性についても把握し、施策からこぼれ落ちる被災者が多様に存在することを指摘する論考も、英語も一部含めながら、公表してきた。 さらに平成29年度は、被害の総体と支援との交差の解明を、アクターと協働で行うことに注力し、成果の一部を、フロネシスが蓄積されているアクター(=支援者)たちに還元した。 平成29年度の調査は、質的調査・量的調査の双方において、当初の研究予定を大幅に超えていた。これらを、学内外の有識者との協働しながら、調査結果としてとりまとめ、報告書や会議発表などの形で、アクター(=支援者)に還元することについては、一定の成果を収めた。しかしながら、膨大な調査結果を学術的にも還元する作業については、ほぼ未着手であった。 そこで、平成30年度は、平成29年度に行った質的・量的調査を学術論文等のかたちにとりまとめ、学術的にも還元することをめざす。具体的には、まず量的調査については、研究ノート等の形でまとめて公表する。さらに、研究成果の学術書出版についても模索を進める。
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Causes of Carryover |
本年は、広域災害支援の対象となる原発被災者について、広範な質的・量的調査を展開した。新潟県に蓄積された避難者アンケートの分析などを行ってきた。しかし、平成27年度、28年度に実施した定量分析は、単純分析にとどまった。このため、ソフトウエア購入は、見合わせた。また、28年度に行ったヒアリングでは、証言者が謝金を辞退したこと、旅費が予定よりかからなかったことなどから、使用額に差が生じた。
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