2015 Fiscal Year Research-status Report
マングローブ林のミッシング炭素 -分解呼吸によるCO2は何処に行く?-
Project/Area Number |
15K12186
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金城 和俊 琉球大学, 農学部, 准教授 (30582035)
飯村 康夫 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (80599093)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マングローブ林 / 吹通川 / 炭素循環 / 微生物呼吸 / 土壌呼吸 / 溶存無機炭素 / 炭素安定同位体 / 潮位変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
マングローブ林における微生物分解呼吸は、通常の森林と同様に土壌表面からのCO2代謝(土壌呼吸)として測定され、還元的条件下で非常に小さいと考えられてきた。しかし近年の研究では、マングローブ林内での微生物分解呼吸 (HR) のほとんどが定量されずに溶存無機炭素(DIC)として失われている(ミッシングC)ことを意味する。本研究の目的は、このミッシングCの探索のためにマングローブ林でのHRの定量的な評価手法を開発することである。まず最初に、CO2フラックスの定量的評価のために、自動開閉式土壌呼吸システムを開発して潮位変動を通した連続測定を試みた。その結果、CO2放出速度は土壌温度の他に潮位の影響を強く受けていること、浸水時にも露出時の約3割のCO2が水面から大気へ放出されていることが明らかになった。さらに、浸水や露出の瞬間には、一時的にCO2放出速度が増加する現象も認められた。これらの結果は、従来の土壌呼吸の測定方法では、HRが大きく過小評価されていることを示唆している。またHRによるDICフラックスの定量のために、マングローブ流域の河川上流部から河口までの6地点において、2016年3月に24時間連続で1時間毎に河川水をサンプリングして分析を行った。分析項目としてはpH, EC, DIC濃度及びδ13C-DICである。ほとんどのサイトで、DIC濃度は潮位変動と反対のパターンを示し、満潮時にはアルカリ性であるにもかかわらずDIC濃度が低くなり、干潮時には中性でDIC濃度が高くなるパターンを示した。また干潮時のδ13C-DICは重くなり、土壌有機物起源と考えられた。これはマングローブ林流域から多くのDICが発生して水中に溶けて失われていくことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では石垣島吹通川河口のマングローブ林を対象として、系内でのすべての微生物分解呼吸量を定量するための手法開発を目的としており、三つの計画からなっている。本年度は、1)干潮時の土壌表面と満潮時の水面からのすべてのCO2フラックスの定量的評価のために、マングローブ林用の新たな自動開閉式チャンバーとバッテリー駆動連続測定システムを開発した。このシステムを利用する事により、干潮時の土壌表面からだけでなく、満潮時の水面からCO2フラックスを含め、潮位変動を通した土壌呼吸の連続測定が可能となった。2) マングローブ林内の地下水位とDICプールの時間的変動のモニタリングにより、林内から系外へのDIC流出プロセスの解明と流出量の推定を行うために、河川水の経時的なサンプリングを行った。これらの結果、潮位変動に伴うDIC濃度とδ13C-DICの変動を捉える事が可能であった。この事は、仮説の通りにマングローブ流域から微生物分解呼吸の多くがDICとして流出している事を示唆している。(3) (2)の推定手法の評価のために、δ13C-DICを用いた同位体混合モデルによって、DICの起源分析と系内からの流出量を推定して、比較検討する必要がある。大量の水サンプルのδ13C-DICの測定には、塩化バリウム溶液を用いてDICを現場で沈澱化させて、同位体マスを用いて岐阜大で測定する簡便法の開発が必要である。本年度は、DIC濃度の測定の際に、沈殿化法による同位体測定を行うと共に、一部のサンプルについてはδ13C-DICを依頼分析して、精度確認を行った。ほぼ依頼分析の結果と同じ値を得ることができ、今後現有施設での全てのサンプルの分析を行う。このように全ての項目について、ほぼ計画通りの進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の計画としては、マングローブ林内での分解呼吸(HR)のほとんどが定量されずに溶存無機炭素(DIC)として失われているミッシングCの定量的な評価手法の開発である。HRの中でCO2フラックスについては、土壌呼吸の連続測定手法が開発され、今後季節的な測定を行う。さらにプロット内には樹木の枯死に伴って大型木質リター(CWD)が散在しており、これらの分解呼吸量についても定量的な評価が必要である。CWD呼吸については、チャンバーを用いた密閉法によって、季節的な測定を行う。これらの結果に基づいて、温度と潮位変動の関数としてのマングローブ林内でのCO2フラックスの定量的な評価が可能となる。DICについては、潮位変動に伴うDIC濃度と同位体の変動から、マングローブ林における大きなDICフラックスが示唆されたので、潮位変動に伴う水フラックスから流域全体でのDICフラックスの定量的評価が必要である。そのために、またδ13C-DIC を用いた同位体混合モデルによる推定を行う。大気平衡のδ13C -DIC、土壌有機物を分解するHR由来のδ13C -DICは大きく異なるため、大気起源と土壌起源の13C 同位体混合モデルの作成を行う。さらに、吹通川マングローブ林全域の詳細な地形測量と標高の測定から、潮位変動に伴う海水の流入と流出のプロセスをシミュレーションする。最終的に昨年度開発した手法によって、各季節においてDIC濃度変動の測定と共に、全ての水サンプルにおいて同位体を測定し、マングローブ林土壌の分解に伴う土壌呼吸起源と海水・河川水起源のDIC 混合割合を求め、季節的・経時的なDIC 濃度変動と水ボリューム変動から、潮位変動に伴う林内からの系外へのHRによるDIC フラックスを推定する。
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Causes of Carryover |
潮位変動に伴う、DIC濃度変動の測定について、特に炭素安定同位体の測定手法に関する検討が長引いたため、野外での集中的な調査開始が遅くなった。本年度は3月に現地での水サンプリングと集中調査が可能になったため、旅費や物品費の使用がやや遅れる原因となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
吹通川河川でのDIC濃度と炭素安定同位体の測定については、3月の調査でほぼ手法を確立したため、この手法に基づいて、来年度は季節的に4回程度の集中野外調査を計画している。また、DICフラックスの推定のために、マングローブ林と海域との水交換モデルを構築する必要があり、このためのマングローブ林流域の詳細な地形測量が必要とされ、これについても多くの人員を必要とする野外集中調査を行う。このように本年度は多くの野外調査費用と分析のための消耗品を必要とする。
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Research Products
(4 results)