2015 Fiscal Year Research-status Report
放射製氷プロセスを応用したトリチウム水分離技術の検討
Project/Area Number |
15K12226
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
上村 靖司 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70224673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トリチウム / 凍結分離 / 放射冷却 / 汚染水 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射能汚染水の処理の問題は深刻である.放射性セシウム等の大半の放射性物質を除去する技術は確立されているが,三重水素(トリチウム)の効率的除去技術は未だ確立されていない.本研究では,純水(H2O)との融点の違い(H2Oの0℃に対して,トリチウム水T2Oは4.45℃,重水D2Oは3.8℃,HTOは融点2.23℃)を利用して,効率的にT2Oを分離する技術の開発に取り組んだ.また重水,トリチウムの密度が水の密度(3.98℃で最大0.999972 g/cm3)よりも1割以上大きいという性質も活かし,自然対流を効果的に促進させることも意識した.この試みの基礎となる技術は,申請者が開発した「放射冷却による製氷」である.これは他に類を見ない新しい原理に基づく凍結プロセスであり,比較的容易に単結晶氷塊が製造できるという特長を有することから,精密な温度制御によって低濃度D2O溶液から選択的にD2O(トリチウム水を模擬)のみを氷として取り出す原理の探求に取り組んだ. 研究初年度となる2015年度には,-20~80℃の範囲で0.01℃の分解能で温度設定できる低温循環水槽の恒温水槽内に,製作した放射冷却ユニットおよび製氷水槽(内槽)および温度安定用水槽(外槽)の2層の水槽を入れ,上部を断熱蓋で覆った装置を製作した.恒温水槽を+0.5℃に設定し,放射冷却ユニットに-25.5℃の不凍液を循環し,製氷水槽内で製氷が進むことを確認した.続いて,2 wt%の重水溶液を使い,約24時間の製氷を行い,凍結分と非凍結分を分離してそれぞれの融点を測定したところ,両者の間に0.02℃の融点の差が生じた.続いて製氷水槽上部に,2 wt%の重水溶液が1.5wt%に希釈されたことを意味し,溶液の希釈(氷側への濃縮)が確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度は,-20~80℃の範囲で0.01℃の分解能で温度設定できる低温循環水槽の恒温水槽内(W170×D200×H150mm)を購入し,-20~-40℃の不凍液を循環して放射冷却できるユニットを製作した.恒温水槽内に不凍液で満たし,その内側に水道水を入れた温度安定用水槽(外槽)を,さらにその内側に試験水を入れる製氷水槽(内槽)を沈めた.放射製氷ユニットは内槽に載せ,鉛直下向きに放射による冷却するように設置した.実験室が室温(18℃前後)であるため,恒温水槽上部全体を断熱蓋で覆って熱流入を調製した(プラス温度を維持するために適度な熱流入が必要).まず予備試験として恒温水槽を+0.5℃に設定し,放射冷却ユニットに-25.5℃の不凍液を循環し,製氷水槽内で上部から均一に鉛直下方に製氷が進むことを確認した.続いて,重水試薬を2 wt%の濃度となるように水と混合した溶液を使い,約24時間の製氷によって約200gの氷を生成し,凍結した氷と凍結していない溶液を分離してそれぞれの融点をベックマン温度計によって測定した.融点値から理論的に求められる氷の重水濃度を計算したところ,両者の間に0.02℃の融点の差が生じた.続いて,過冷却させずに安定的な初晶発生を導くために,あらかじめ重水試薬で作っておいた種氷を製氷水槽上部に設置してから同様の製氷実験を行ったところ,種氷が消失することなく製氷が行われ,前の実験と同様に0.02℃の融点差が得られた.この温度差は2 wt%の重水溶液が1.5wt%に希釈されたことを意味し,溶液の希釈(氷側への濃縮)が確認された.以上の通り,本研究初年度の目的とした基本原理の有効性の確認はできたと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に本原理による同位体水を凍結側への濃縮,非凍結側の希釈の効果が見られることは確認できた.しかし,その効果は限定的に現状では非効率である.第2年度には,その分離(濃縮/希釈)の効率を向上するための条件の特定に取り組む.具体的には,冷却水温度条件(製氷速度の影響),対流条件,外水槽内温度(プラスにする方が融点差を活かしやすいが,凍結しにくくなる),同位体水濃度条件を変えながら実験データの蓄積を進める.一回の凍結-融解サイクルでの濃縮効率が特定されたとして,複数回繰り返すことによる段階的濃縮の可能性についても検討する.
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Causes of Carryover |
必要な機材、実験装置製作に伴う資材費、加工費等は必要十分に調達をし、また旅費、人件費等についても計画したものには支出を行ったが、ごく少額の残が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
第2年度に実験装置の改良の際の材料費に充当することを予定している。
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