2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12740
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
脇本 敏幸 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (70363900)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | calyculin A / リン酸化 / 脱リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋天然物には極めて低濃度で強力な細胞毒性を示す化合物が見出されており、抗がん剤のリード化合物として期待されている化合物が複数存在する。中でもハリコンドリンBやエクテナサイジンは海洋天然物由来の抗がん剤開発の成功事例として記憶に新しい。細胞毒性物質の多くがチューブリンやアクチンなどの細胞骨格分子やタンパク質脱リン酸化酵素などを特異的に阻害し、細胞周期に変調をもたらし、増殖阻害活性を発揮する。これらの標的分子は動物細胞に共通して存在するタンパク質である一方、生物活性海洋天然物の多くが海綿やホヤなどの海洋無脊椎動物に含まれている。したがって、海洋無脊椎動物における強力な細胞毒性物質の生産機構には自己耐性機構が内在している可能性が高いが、その詳細な機構はほとんど分かっていない。本研究では伊豆半島、伊豆諸島に生息するチョコガタイシカイメン(Discodermia calyx)を対象として細胞毒性物質生産過程の自己耐性機構を明らかにすることを目的とした。 チョコガタイシカイメンにはタンパク質脱リン酸化酵素1及び2Aの特異的阻害剤であるcalyculin Aが高濃度で含まれている。我々は先行研究においてcalyculin Aの生合成遺伝子の取得に成功しており、その詳細な機能解析の過程で、calyculin Aのリン酸化酵素CalQを見出した。CalQは当初生合成の最終産物と考えられていたcalyculin Aをさらにリン酸化し、ピロリン酸基を有する新規化合物phosphocalyculin Aを与える。Phosphocalyculin Aの細胞毒性はcalyculin Aよりも1000倍低下しており、未同定の脱リン酸化酵素によって脱リン酸化され、活性化されることが分かっている。そこで、海綿粗酵素液に含まれるphosphocalyculin A脱リン酸化活性を指標に脱リン酸化酵素の単離・同定を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Calyculin類は伊豆半島沿岸に生息するチョコガタイシカイメンDiscodermia calyxより単離された強力な細胞毒性物質であり、タンパク質脱リン酸化酵素1及び2Aを特異的に阻害する。分子内に有するリン酸エステル基がリン酸化セリン、スレオニン残基のミミックとして機能し、強力な酵素阻害活性を示すと考えられている。先行研究において我々は海綿D. calyxのメタゲノムDNAより、calyculin生合成遺伝子のクローニングを行った。さらに遺伝子クラスター上流にコードされたリン酸基転移酵素を大腸菌にて異種発現し、その機能解析を試みた。その結果、calyculin Aの分子内リン酸エステル基がさらにリン酸化され、より低毒性なphosphocalyculin Aが生じることが分かった。Phosphocalyculin Aは従来の抽出、単離工程では見出されていなかった新規類縁体であった。そこで、海綿D. calyxより粗酵素液を調製し、プロドラッグ体phosphocalyculin Aと反応させた。その結果、D. calyx特異的に存在する酵素により、phosphocalyculin Aの脱リン酸化が進行し、calyculin Aが生じた。これらの実験結果は、calyculin類のリン酸化-脱リン酸化を介した巧妙なactivated chemical defense機構が海綿D. calyx に内在することを示している。さらに、活性化酵素である脱リン酸化酵素を同定するために、phosphocalyculin A脱リン酸化活性を指標として、陰イオン交換やゲルろ過など各種クロマトグラフィーを用いて海綿粗酵素液の分画精製条件を検討した。その結果、粗酵素液より比活性が約100,000倍濃縮した活性タンパク質画分が得られ、SDS-PAGEにおいて約50 kDa付近に活性画分特異的なバンドが確認できた。現在、MS/MS解析により得られたタンパク質の同定を試みている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は脱リン酸化活性を有する酵素の分画・精製を重点的に試みた。海綿内におけるphosphocalyculin Aの活性化は組織障害依存性の刺激に伴い作動するが、単純にプロドラッグ体と活性化酵素が混じり合う機構だけでは説明できない要素がいくつか考えられる。例えば、組織障害だけではcalyculin A生産者である微小なバクテリア細胞まで物理的に壊すことは不可能と考えられる。したがって、より複雑なシグナル伝達機構が内在することが示唆される。そのため、シグナルの最下流に位置する活性化された脱リン酸化酵素をまず同定することが重要な足がかりとなる。超遠心、硫安分画、各種ゲルろ過やイオン交換カラムクロマトグラフィーを分離方法として検討した。その結果、比活性を濃縮することに成功したが、依然として効率的な分離には至っていない。今年度はさらにカラム精製条件を詳細に検討するとともに、基質との親和性を指標としたアフィニティーカラムやザイモグラフィーの適用も試みる。
|
Causes of Carryover |
予定していた物品の納品が年度内に間に合わなかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度末に購入を予定してた試薬類の購入に充てる。
|
Research Products
(17 results)