2016 Fiscal Year Research-status Report
「出生前遺伝学的検査」と中期中絶をめぐる統治の理論構築:女性の身体保護の視点から
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15K12794
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
山本 由美子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 講師 (20716435)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 身体 / 出生前遺伝学的検査 / 調整 arrangement / 生命のない子ども enfant sans vie / 言語的承認 / 欧州 / 人工妊娠中絶 / 統治性 governementality |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、欧州、なかでもフランス・中欧諸国(スイス・ドイツ)に広く焦点を当て出生前遺伝学的検査(NIPT)における倫理的問題の所在について検討および分析することができた。とりわけフランスにおいては、生まれてくるはずの子どもに対する生命科学技術と法的・医療的体制の合理的融合という形態を取りながら、ダウン症の胎児とその存在を妊娠している女性の双方を搾取する仕掛けを明らかにし、そのことが示唆する現代フランス社会の欺瞞と不寛容について整理した。フランスの側面から本研究が明らかにしたのは、1)胎児が胎児でありうるのはあくまでも社会的承認を通してであり、胎児に対する存在論的事実や医学的事実はもはや記号でしかないこと、そして、2)社会的承認を得られなかった存在に対しては、いわば<死すべき胎児の言語的創生>の技法があらかじめ用意されていることである。 スイスの側面から明らかになったのは、欧州の出生前遺伝子検査の導入期にドイツと密接に関わりつつ、自国スイスでの技術開発に向けて着々と準備が進められていたことである。スイスという切り口から明確になったのは、NIPTをめぐる一定の規制があっても、医師の裁量次第で不平等や不公正が生じているということである。また、NIPTの原理的な意味を問うことなしに技術だけを実践する状況は、ダウン症の人々の存在をますます蹂躙しつつ、女性身体を技術・制度・国境の狭間に置き去りにしているということである。両国の分析から、日本における同様の問題にも多くの示唆を得ることができた これらは、三本の論文(査読ジャーナル掲載1本、査読ジャーナル脱稿済査読中1本、学術論文1本)にまとめている。また、学術講演会および研究会で計四件の発表をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の遅れを取り戻し、論点を明確にしながら、日欧について考究を進め論文にまとめることができたことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該研究テーマに直結していながら日本ではまだ紹介されていない著書の翻訳に取り組みたい。また、医療技術実践の諸問題について現地調査を予定したい。
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Causes of Carryover |
翻訳出版の準備および手続き中のため、最終年度の使用とする。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費のほか、版権、出版費、校閲等におもに使用する。
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Research Products
(5 results)