2017 Fiscal Year Research-status Report
「出生前遺伝学的検査」と中期中絶をめぐる統治の理論構築:女性の身体保護の視点から
Project/Area Number |
15K12794
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
山本 由美子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 講師 (20716435)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 統治性 / 女性身体 / 子産みの統治性 / 自律性 / 言語的承認 / 生命のない子ども / 科学者のジェンダー / 女児 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は生命科学技術、なかでも出生前検査をめぐる諸問題を中期中絶と女性の任意性に注目するものである。あらたな出生前検査の出現は、同検査と中絶をめぐる諸体制が、女性の身体リスクを過小評価したうえに成り立ってきたことを表面化させた。また特定の属性の胎児に焦点をあてる出生前検査やそれに伴う中絶を容認する根拠は、以前として曖昧であることを浮き彫りにした。 本研究では、生殖をめぐって展開される生命科学技術と医療専門家および国家による統治と、そこに内包される問題を医学的・社会的・倫理的に明らかにした。また出生前検査と「言語的承認」の関係を分析することにより、統治のあらゆる段階において女性が客体化されていることを明らかにした。この統治の仕組みは、特定の属性の胎児の排除を不問にしたまま、生命科学技術における商業性の排除、女性の任意性および女性身体の保護のいずれも担保しえていないことが分析された。 〈女性身体の保護〉の理論構築では、医療システムを超えた〈子産みの統治性〉というあらたな概念を用いることで、生殖の統治それ自体からの解放をも展望する分析が可能となることが示唆された。 なお、研究遂行の過程で、21トリソミー発見をめぐる女性科学者の功績が公正に評価されていれば、21トリソミーの人々の現在の立ち位置が大きく変わっていた可能性が示唆された。今後の研究のあらたな論点として取り入れ、引き続き分析していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生殖をめぐる生命科学技術と医療専門家および国家による統治を超えて、諸個人に内在ないし流通する統治性について検討した。現在の生命科学技術とりわけ出生前遺伝学的検査の「先進諸国的到達点」として、脱医師化ないし脱医療施設化および遺伝子検査のキット化により、「死すべき胎児」を孕みうるすべての女性を生殖の統治の射程圏に入れたことを明らかにした。〈女性身体の保護〉の理論構築は、医療システムを超えた「子産みの統治性」というあらたな概念を用いることで、生殖の統治それ自体からの解放をも展望した分析が可能となることが示唆された。 研究遂行の過程で、21トリソミー発見をめぐる女性科学者の功績が公正に評価されていれば、21トリソミーの人々の現在の立ち位置が大きく変わっていた可能性が示唆された。本研究におけるあらたな論点を見いだすことができ、今後の研究におおいに発展させていきたい。 なお、本研究成果である学術論文に対し、今年度学会賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は生命科学技術における「子産みの統治性」を、M.フーコーの問題圏に引きつけ捉え返す作業を進める。さらに21トリソミー発見をめぐる女性科学者をフォーカスし、科学者のジェンダーもまた搾取の対象となることを明らかにしつつ、21トリソミーの人々の生存と生命科学技術の関係を現代史的に分析する作業を進める。 21トリソミーをめぐる未翻訳書の翻訳を進めてきたが、科学者および医学者M.Gautier氏の他界により、その功績含め著書としてまとめる必要性が出てきた。これらに取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
研究遂行によりあらたな論点を見いだしたことから、追加調査の必要性が生じたため。書籍費またはインタビューに必要な渡航費として使用する。フランスにおける21トリソミーの発見プロセスに関わる論争を整理したい。医学史・科学史的視座で出生前検査とジェンダーの関係を分析することは、本研究の幅を広げると同時に今後の研究の指標となると考えている。
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Remarks |
〈2017年度日仏社会学学会賞受賞〉 フランスにおける子どもの条件と医療・倫理・社会――「生命のない子ども(enfant sans vie)」たち
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Research Products
(3 results)