2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K12856
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 将明 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (10434177)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 初期近代小説史 / ペスト流行(1665年) / 政治と文学 / ガリヴァー旅行記 / 重力の虹 / トリストラム・シャンディ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、共著を1冊、単著論文を1編、国内での研究発表を3回、海外での研究発表を2回(うち1回(Fiction and the Glorious Revolution)はシンポジウムの司会も含む)を行った。 単著論文「『トリストラム・シャンディ』と留保される名前」では、『トリストラム・シャンディ』について、「仮名的世界」という新しい概念から分析を試みた。また、共著『きっとあなたは、あの本が好き。』は、一般向けの読書ガイドではあるが、本書におけるルイス・キャロルらの分析には、「欲望と差異」を鍵に近代文学を再考する本研究のアプローチが役立っている。 研究発表のうち、「注釈と反復」では、スウィフト『ガリヴァー旅行記』を注釈への欲望を喚起する書物として再考することを示唆し、「『重力の虹』と『ガリヴァー旅行記』第三篇」では、スウィフトとピンチョンという近代の始まりと終わりに立つ作家が、いずれも科学批判という形で近代人の際限ない欲望に鋭く切り込んでいる点に注目した。さらに、“Fiction and the Glorious Revolution: Providence in Defoe’s Writings”では、名誉革命の熱心な擁護者であったデフォーが『ロビンソン・クルーソー』執筆に至るまでの過程を、政治と文学の関係に注意しつつ再考した。これらの発表は、いずれも18世紀小説史を欲望と差異に注目して書き直そうという本研究の成果と見なすことができる。 なお、勤務先の東京大学から半年の研究休暇を得ることができたため、平成27年9月15日より平成28年3月14日まで、アメリカ合衆国の研究機関で資料調査を行った。具体的に訪ねたのはルイジアナ州立大学ミドルトン図書館、同大学ノエル・コレクション、同大学ヒル記念図書館、イェール大学ルイス・ウォルポール図書館、ハーヴァード大学ホートン図書館である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デフォーとスウィフト、ヘイウッド(ほか女性作家)の作品における欲望と差異の問題を研究する予定であったが、デフォーとスウィフトに関しては研究発表で成果を示した。ヘイウッドに関しては、彼女だけでなくマンリーなど他の女性作家の著作も調査し、加えて彼女らと関係の深いフランス語からの翻訳小説についても資料を集めた。予定より多くの資料を扱うため、まだ成果を発表していないが、2016年度には発表する予定である。 スターンに関する論考を2本執筆予定であったが、これは長い論考を1本のみ発表することになった。また、ヘンリー・フィールディングに関しても考察を深め、これは2016年に論考を発表予定である。研究論文の発表数は予定より少ないが、口頭発表に関しては、2回の予定が5回に増えている。 アメリカでの文献調査では、当初はイェール大学のルイス・ウォルポール図書館とバイネケ図書館のみを訪れる予定だったが、このうち後者は改築中等の理由で訪問を断念した。しかし、半年に渡って合計5つの図書館で調査を実施したので、当初の予定よりも進展があったといえる。ノエル・コレクションでは、18世紀イギリスに関する多様な資料を開架の状態で自由に閲覧でき、大いに知識を深めることができた。ルイス・ウォルポール図書館では、ホラス・ウォルポールによるスウィフト著作集・書簡集への膨大な欄外書き込みをすべて解読し、18世紀の文壇および政界におけるスウィフト評価について、大いに得るところがあった。また、ホートン図書館では、偽書『台湾史』を1704年に刊行しスキャンダルを巻き起こしたジョージ・サルマナザールに関する膨大な資料のほとんどを読み、『台湾誌』を『ロビンソン・クルーソー』(1719)と『ガリヴァー旅行記』(1726)の文脈で再評価することが18世紀の文学史にとって重要な意味をもちうることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は在外研究をもらったこともあり、資料を収集・読解することに多くの時間を割いたが、次年度からはより論文執筆に時間をかけ、とりわけ英語論文と国際学会での発表の数を増やしたい。これによって国際的な研究のネットワークと連携をとりつつ、最先端と言えるような研究を遂行することが今後の方策である。 半年の在外研究で得た大量の資料を精読し、18世紀前半から中盤におけるフィクションとノンフィクションの関係について、旅行記という分野に注目しながら研究する。とりわけ、異文化や他者の表象は、フィクションにおける「欲望と差異」の描かれ方を知る上で重要である。また、ヘイウッドやマンリーなど、女性作家のロマンス風の小説がこの時代にもった異議についても考察をまとめる。 平成28年度には、さらにリチャードソンとフィールディングに関し、比較的研究の少ない『サー・チャールズ・グランディソン』や『アミーリア』も含めた文学史的な研究を進める。また、『群像』に断続的に発表してきた18世紀イギリス小説論をフィールディング論によって完結させ、単行本にまとめる。さらには、今年度に完了したデフォー『ペスト』の翻訳を出版し、その解説を学術的な『ペスト』論としてまとめる。『ペスト』については、28年度中に英語による論考も執筆する。 平成29年度には、スターン、スモレット、ゴシック・ロマンスを本研究の視座から再考する。本研究に関係したシンポジウムを国内で開催し、またModern Language Associationのような国際学会での研究成果報告を行う。28年度に刊行するはずの18世紀イギリス小説論をもとに英語論文を2本執筆し、The Journal for Eighteenth-Century Studiesのような国際的な雑誌への掲載を目指す。
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Causes of Carryover |
使用予定の金額の多くは書籍代であったが、今年度は在外研究の許可を得られたため、2015年9月から2016年3月までアメリカ合衆国に滞在していた。その間、研究に必要な資料のほとんどを図書館で見つけることができ、書籍を購入する必要がなかった。加えて、海外で書籍を大量に購入しても輸送費がかさむので、せっかくの科研費を有効につかえない恐れもある。そのため今年度は購入予定の書籍の一部を諦め、次年度以降に購入することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究で扱う18世紀の主要作家の全集(フィールディング、スウィフト等)の購入に使用する予定である。これは、当初計画されていたが、上記の事情によって購入を延期していたものである。
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Research Products
(7 results)