2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K12856
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 将明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10434177)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近代小説史 / 小説論 / 欲望と差異 / 人類学 / ヘンリー・フィールディング / ジョージ・サルマナザール / ペストの記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、フィールディングに関する長編の論考「小説の機能(5)『トム・ジョウンズ』と僭名の時空」を完成させ、2年間『群像』に掲載してきた「小説の機能」を完結させた。本評論は2017年に書籍化される予定である。この研究は、近代小説を匿名の強迫的な欲望、および欲望からのズレ、すなわち差異とのダイナミズムという観点から捉え直し、イアン・ワット以来の近代小説と個人主義と中産階級を結びつける小説観を批判的に乗り越える試みである。この研究成果は、2017年5月発売予定の『教室の英文学』(研究社)における拙稿「小説の誕生」にも反映されている。 また、2016年2月から3月にかけて、ハーヴァード大学ホートン図書館でおこなった資料調査を元に、今年度はジョージ・サルマナザールに関する研究を進めた。サルマナザールによる偽書『台湾誌』が、単なる際物ではなく、18世紀初期の出版界の需要を反映した点で、出現すべくして出現したテクストであること、また『台湾誌』から振り返ってデフォーやスウィフトのテクストを読み返すことで、18世紀文学への見方がラディカルに変容しうることが明らかになった。この成果は、主に北京大学での招待講演"Curiosity and Credulity"に示されている。また、この研究の関連で、ヴィヴェイロス・デ・カストロ『食人の形而上学』など最新の人類学を文学研究に応用する方法について考えるようにもなった。 これに加えて、昨年のデフォー『ペストの記憶』研究から発展して、先述の『教室の英文学』の論考のほか、“Autonomy and Ambiguity of the Trading Capital"という論考を研究論集に寄稿した。さらに、『ロビンソン・クルーソー』とソッローの『市民政府への抵抗』とを比較する発表を日本ソロー学会で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果そのものは、日本語、英語の論考ともに順調に発表できているし、国際学会での発表も実施できている。 とりわけ、フィールディング研究は、当初の計画通り、従来の研究を踏まえつつ新しい『トム・ジョウンズ』の読み方を示せたのではないかと自負している。 また、サルマナザールに関する研究は、当初の予定にはなかったものの、本研究に人類学の応用という新しい方向性を示してくれている。 他方で、本年度実行する予定だったリチャードソン『サー・チャールズ・グランディソン』研究には、ついに踏み込めなかった。また、国際学会での発表について、当初はイギリス18世紀学会でおこなうつもりだったが、他の海外での招待講演が入った関係もあって、実現できなかった。 加えて、イギリスでの資料調査も予定どおりには行わなかった。これは上述のイギリスでの研究発表を諦めたためでもあるが、同時に昨年度の半年のアメリカ滞在で得られた膨大な資料を読み返すだけで十分研究を進められたからでもある。 まとめると、当初の予定にはない進展もみられたものの、その分本来計画された研究のすべては遂行できなかった。この反省点を生かして、2017年度の研究を遂行したい。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、昨年度進められなかったリチャードソンの研究を進めたい。加えて、フィールディングの最後の長篇小説『アミーリア』についても、自分なりの見解をまとめたいと考えている。 また、昨年度完結した「小説の機能」を年内に書籍化することも、ほぼ決定しているので予定通り進めたい。 2017年度は、本来スターンとスモレット、およびゴシック・ロマンスを中心に研究することになっている。スターンについては、年内に論考をまとめ、来年刊行予定の『ローレンス・スターンの世界』という論集に寄稿する。ゴシック・ロマンスについては、2016年度のサルマナザール研究を踏まえ、偽書や奇抜な物語が18世紀の文学史にどのような意義をもっているのかを考察したい。この文脈から、スモレットなどのピカレスク・ロマンをどのように読み直すことができるのかも検討する予定である。 すでに5月の日本英文学会で、サルマナザールに関する研究発表が予定されている。また、7月の日本ジョンソン協会では、最近の18世紀イギリス文学研究の動向を論じるシンポジウムに登壇するので、本研究で得られた成果を発表するつもりである。 また、年度内に英語による論考を1本書き、欧米の研究誌に投稿すること、および年度内もしくは来年度のはじめに国際学会で本研究の成果を公表することも、目標としたい。
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Research Products
(9 results)