2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K12935
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中野 等 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (10301350)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 豊臣政権 / 豊臣家奉行人 / 豊臣家奉行連署状 / 石田三成 / 浅野長政 / 増田長盛 / 富田一白 |
Outline of Annual Research Achievements |
豊臣政権は存続期間が二十年程度と短かったため、政務執行の組織編成も不充分であり、属人的な原理で政治がすすめられたといわれている。本研究はこうした認識に対して、基礎史料たる古文書分析の立場から、再考を迫ろうとするものである。すなわち、秀吉の発給文書と近侍する奉行衆とが発する副状を一体的に分析することでも豊臣家文書論の定立を計り、それをふまえて新たな豊臣政権論を描き出すことを目指している。豊臣家奉行人が秀吉の朱印状・御内書に添えて発給する副状は、秀吉文書の内容を反復するにとどまらず、さらに詳細な説明を加えて秀吉の意図を相手に徹底させようとするものである。また、秀吉発給の文書がその体面を保たざるを得ない様な場合には、奉行人副状に真の意図が反映することもある。一方、秀吉文書・奉行副状の充所たる大名などが秀吉側に通信する場合、秀吉に充てて直々に文書を発するのではなく副状の発給者である侍臣に充てた披露状のかたちをとる。豊臣家文書論の確立を期す上で、豊臣家の奉行が発給する文書群の解析は不可欠の課題といえる。岩波講座『日本歴史』の「豊臣政権論」執筆にあたり、能う限り文書論的成果を踏まえつつ政権論の構築に努めた。一定の方向性は提示できたと考えるが、本科研の採択によって、さらに論点は深化したと認識している。平成28年度は日本古文書学会での報告をおこない、政権と諸大名との関係調整をになう存在として注目されてきた「取次」論に対して再考を促すべきとの立場を明らかにした。また、豊臣家奉行人としてしられる石田三成については一次史料の博捜と分析をすすめ、小著『石田三成伝を刊行した。もとより、小著は三成の単独発給文書にも多く言及しているが、たとえば増田長盛ら他の奉行人との連署状についても多角的に論じており、本研究の目指す「豊臣家文書論」の定立にむけても、大きく裨益するものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は日本古文書学会での報告および、『石田三成伝』の刊行という大きな成果をあげることができた。前者の学会報告では、当該期の一次史料にみえる「取次」や「取成」といった文言に注目することで、古文書分析から政権論へ迫る上での重要な論点を獲得することができた。また、後者については特定の人物からの定点分析を実現したことで、他の奉行人らの位置づけ等を有機的にすすめていく環境を獲得することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も東京大学史料編纂所等首都圏の史料保存活用機関の調査が中心となるが、昨年の京都府・福井県・長野県調査のように、豊臣期の良質な一次史料を有する地域への調査についても積極的に実施していく。また、本研究のひとつの帰結として、29年度の日本古文書学会でおこなった報告の活字論文化と公表を是非とも実施したい。
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Causes of Carryover |
史料調査の主対象が、国立国会図書館や東京大学史料編纂所など首都圏に集中したが、出張に際し航空機・ホテルのパックツアーのようななものを多用し、予算の効率的な執行につためた。この結果比較的低予算で、所期の研究目的を実現することが可能となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度、研究の完遂を期して史料調査の対象地をさらに拡大するので、旅費等の支出増が想定される。またこの間に集積したデータの整理・分析等をおこなう人件費の支出も見込まれる。
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[Book] 石田三成伝2017
Author(s)
中野 等
Total Pages
565
Publisher
吉川弘文館
ISBN
978-4-642-02934-6