2015 Fiscal Year Research-status Report
規範の内面化とヒトの攻撃性:規範逸脱者に対する制裁行動を生む心理生理基盤の解明
Project/Area Number |
15K13115
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
清成 透子 青山学院大学, 社会情報学部, 准教授 (60555176)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 泰城 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (60374170)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 社会的規範 / テストステロン / social dominance / 協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、制裁行動を生み出す攻撃性を明らかにするため、攻撃性と関連する男性ホルモンであるテストステロンに着目し、経済ゲーム実験での意思決定に及ぼす影響の検討を目的としている。動物を用いた研究ではテストステロンの果たす様々なメカニズムが明らかにされているが、ヒトに関しては社会関係および社会行動が複雑であるため、未だ明らかにされていない点が多く、とりわけ、経済ゲームにおける意思決定に関しては、研究によって知見が一貫していない。そのため平成27年度は、まず、一貫しない知見の原因を究明するため、これまでの研究をレビューし、知見の整理を行った。次に、先行研究をふまえた上で、テストステロンに駆動された制裁行動が如何にして社会規範や集団内規範維持に関与しうるかを検討するため、秩序維持に重要な役割を果たすと予測される地位の格差を操作に加えた実験をデザインした。通常の経済ゲーム実験研究では、参加者は互いに匿名で対面する機会も存在しない人工的な空間で意思決定を行うことが一般的である。そういった状況下で実験的に地位格差を操作する場合、状況認知の個人差の影響もあって、結果にばらつきが生じる。したがって、本研究では、実験室内で地位格差を人工的に作り出すのではなく、実際に地位格差の存在する集団に所属する参加者を対象とすることで、より強力な地位格差操作を実験室内に作り出すことに成功した。具体的には上下関係の明確な大学体育会所属の学生を対象に、最後通牒取引ゲーム実験を行わせ、集団内地位格差と個々人のテストステロンレベルが意思決定に及ぼす影響を検討した。現在、行動データの解析および唾液サンプルから抽出されたテストステロンデータの解析が終了し、得られた知見の成果報告の準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、体育会所属の学生を対象としたデータ収集を行った。また、対象部活として、初期段階からラグビー部、サッカー部、アメリカン・フットボール部のメンバーからの協力を得て、年間を通じて定期的に体組成データを含む基礎的データ収集を実施した。具体的には、人差し指と薬指の長さ比率(2D:4D)を測定するための手のひらのスキャン、顔の縦横比(fWHR)を測定するための顔写真撮影、その他、握力など基礎的体力指標の測定を実施した。また、筋肉量や脂肪量などの体組成データに関しては2ヶ月に1回のペースで測定を実施し、三部活合計200名強の基礎データを収集した。また、そのうち、スケジュール調節が可能であった一部活を対象として、最後通牒取引ゲーム実験を実施し、実験の前後に唾液サンプルを採取することで、テストステロン指標を測定した。当該研究費のみでは検査費用が不足していたため、当初は実験参加者の一部の唾液サンプルのみ解析する予定であったが、共同研究者および所属機関からのサポートにより、最終的には全ての唾液サンプルデータの解析が可能となった。また、ヒトにおけるテストステロンの役割について進化心理学的な視点からの知見に詳しい海外の共同研究者によるサポートを通じて、現在は得られた知見の理論構築を行っており、おおむね計画通りかそれ以上に順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初計画では、集団間葛藤ゲームを実施する予定であったが、平成27年度に得られた最も重要な知見である、上下関係によるテストステロン効果の違いをさらに検討するため、知見の概念的レプリケーションを含む新たな実験計画に変更する。この変更に伴って集団内の規範維持メカニズムの解明がより進むことが見込めるため、理論構築の面から考えても当初計画よりも本研究課題の目的に合致した進展となる。また、平成27年度同様に、今年度も三部活を対象として、基礎的データの収集を行い、スポーツにおける個人戦績データの収集と他のテストステロン指標との関係も検討する。さらに、当初の計画通り、顔写真を用いた魅力やdominance判定実験を他大学で実施する予定である。 最終的には、2年間のデータを元に、ヒトの男性におけるテストステロンとsocial dominance(社会的優越性)の関係が、地位格差および権力格差のある集団内で如何にして協力行動を成立・維持可能とするかに関するモデル構築を行う。秩序維持に不可欠だと通常は考えられている制裁行動の生起が、ホッブスの議論で想定されている個人の暴力性ないし攻撃性および権力基盤の有無によって如何なる影響を受けるかを明らかにする。
|
Causes of Carryover |
交付金減額により、単年度の予算では唾液サンプルの検査料捻出が困難であった。そのため、次年度と合算することで、より多くの検体を一度に検査可能とするために次年度へ繰り越した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に実施する新たな実験で採取する検体検査料として使用する計画である。
|
Research Products
(2 results)