2016 Fiscal Year Research-status Report
パルス中性子準弾性散乱によるマントル深部含水鉱物の水素拡散ダイナミクス
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15K13593
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
奥地 拓生 岡山大学, 惑星物質研究所, 准教授 (40303599)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中性子準弾性散乱 / 水素拡散ダイナミクス / 含水鉱物 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子準弾性散乱は、固体や液体の内部に存在する水素原子が、与えられたサイト間を移動するときの跳躍距離と跳躍頻度を定量的に計測することができる、ユニークな実験手法である。このような水素の拡散のダイナミクスに関する情報は、中性子が軽水素の原子核によって非干渉性散乱される際の運動エネルギーのわずかな変化を、運動量の変化と併せて計測することで得られる。この手法の鉱物の結晶構造中の水素への応用は、その移動が遅く、計測が技術的に難しかったことから、これまでは全く例がなかった。
Dense Magnesium Hydrous Silicate (DHMS) Phase E [Mg2SiH4O6]は、地球マントルの深部で安定であり、高い含水量を持つ、高密度含水鉱物の代表的な例である。その水素の配置は圧縮されたブルーサイト[Mg(OH)2]とよく似ているが、Phase Eではブルーサイトの層構造を互いに連結するSiの存在によって、水を含む構造がさらに安定になり、例えば地下400kmの条件(圧力14GPa)では1100℃以上まで脱水分解を起こさない。このDHMS Phase Eの水素ダイナミクスの温度変化を調べることができれば、含水鉱物の脱水分解の微視的過程を理解し、予言するための重要な手がかりが得られる。今年度、我々はJ-PARC物質・生命科学実験施設の高分解能非弾性散乱分光器・DNAにおいて、480 Kまでの温度におけるDHMS Phase Eの準弾性散乱を計測することに成功した。得られた結果から、温度とともに拡散する水素の全水素に対する割合が上昇すること、および拡散する水素の平均サイト滞在時間が減少してゆくことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに手法を確立した大量かつ良質の試料の高圧合成法によって、必要量のDHMS Phase E試料を合成し、蓄積することができた。その測定を行った結果、J-PARC物質・生命科学実験施設の陽子ビーム出力の回復が大きく遅れているにも関わらず、480Kまでの温度における水素の準弾性散乱の計測に成功した。これはマントル深部鉱物としては世界で初めての水素の準弾性の計測の成功例である。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年秋に陽子ビームの出力が300kW以上へ回復する予定である。この回復を待って、DHMS Phase Eよりも含水量が少ない高圧合成試料の計測を積極的に進める。
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Causes of Carryover |
J-PARC物質・生命科学実験施設の陽子ビームの出力の回復が、依然、大きく遅れている。そのために、高圧合成試料のうち含水量が少ないものの測定が依然として困難な状況が続いている。本年度は、この問題に対処するために、DHMS Phase Eの計測以外に使ったマシンタイムの一部で天然鉱物試料や前処理した試薬を測定した。これらの試料は、高圧合成実験を経ずに準備した。よって合成に用いる消耗品の損耗が減少したので、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年秋に陽子ビームの出力が300kW以上へ回復する予定である。この回復を前提に、含水ワズレアイト等含水量が少ない試料の高圧合成を積極的に進める。消耗品の損耗も増加するために、これに次年度使用額を充当する。
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Research Products
(5 results)