2017 Fiscal Year Research-status Report
糖鎖とレドックスの融合による新規病態メカニズムの解明
Project/Area Number |
15K14481
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
谷口 直之 国立研究開発法人理化学研究所, システム糖鎖生物学研究グループ, グループディレクター (90002188)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 糖鎖 / レドックス / 糖転移酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「糖鎖」と「レドックス」という細胞が持つ一見独立した2つのシステムが密接に制御合う協調的システムを新たに見出し、"Glyco-Redox"制御異常を背景とする多くの疾患の全体像の解明・治療法探索につながる新しい知見を得ることである。 平成29年度は、昨年度までの成果を発展させ、肺や血管に発現し、ROSの解毒化を行う分子であるSOD3に着目した研究を行った。SOD3分子上のN型糖鎖を改変すると、FurinによるSOD3のC末端の切断、および細胞外への分泌が変化することがわかった。特に、C末端の切断や細胞外への分泌には末端にシアルを持つ糖鎖を持つことが重要であることが明らかになった(Ota et al., Glycobiology, 2017)。また現在、SOD3の糖鎖構造と肺疾患との関連性を見出しつつある。また、糖鎖の合成材料である糖ヌクレオチドに着目し、新規の糖ヌクレオチドであるUDP-マンノースを動物細胞において初めて同定した(Nakajima et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2017)。さらに、先天性免疫に重要な働きを持つTLR4の糖鎖に着目し、細菌由来成分によるTLR4を介した免疫応答の際、TLR4のコアフコース糖鎖がその機能に不可欠であることを見出した(Iijima et al., Glycobiology, 2017)。これらの成果は、糖鎖とレドックスの融合という細胞の制御システムの存在を支持し、糖鎖の新しい機能と疾患との関連性を示すものである。さらに、得られた成果の一部をBiochim. Biophys. Acta誌に総説論文として発表した(Kizuka et al., 2017)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究課題に直接関連する成果として原著論文3報と総説論文1報の掲載に至った。それらは、COPDやアルツハイマー病などの現代社会が抱える大きな医療課題に深く関連するものであり、本研究の成果によりそれらの発症メカニズムの解明や新たな治療法の開発へとつながることが期待できる。こうした各論の成果が着実に上がりつつあり、グライコレドックスシステムとその破綻による疾患発症機構の一端が明らかになりつつある。ただ、現在までにSOD3の糖鎖構造と肺疾患との関連性を示すデータを得ており、その研究を完結させるために、期間の延長を申請した。
|
Strategy for Future Research Activity |
COPDや肺がんに深く関連する解毒酵素であるSOD3の糖鎖の役割についての基礎研究をさらに推進する。現在、複数の肺疾患患者の体液サンプルにおいてSOD3の糖鎖構造の変化を見出しており、今後は例数をさらに増やすとともに、詳細な糖鎖構造の同定、またその機能的な変化について明らかにし、論文として発表したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本研究は、「糖鎖」と「レドックス」が強調する新しい機構を明らかにし、関連する疾患の治療や診断に資する知見を得ることを目的としている。今年度までの主要な成果として、酸化ストレスの解毒に関わるSOD3の機能が糖鎖によって調節されることを発表した(Ota et al., FEBS Lett., 2016)(Ota et al., Glycobiology, 2017)。さらにこの知見を発展させ、肺疾患の罹患とSOD3の糖鎖変化との関係性を示すデータが得られつつある。ただ、ヒトのサンプルの扱いに時間を要したため、解析を終了し、成果としてまとめるにはもう少し時間が必要である。論文を発表するまでには、約半年の期間延長が必要であると見込んでいる。未使用額は、主に血液の解析に必要な消耗品類の購入費用、論文執筆のための英文校閲、論文掲載費用、学会発表のための旅費などに使用する予定である。
|
Research Products
(7 results)