2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16655
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Research Institution | Kyoto National Museum |
Principal Investigator |
呉 孟晋 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部列品管理室, 主任研究員 (50567922)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 長尾雨山 / 中国書画 / コレクション / 題跋文学 / 日中文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
大正から昭和にかけて京都を拠点に書家、書画鑑定家として活動した長尾雨山(1864~1942)に関連する文献資料や書画作品について、本平成28年度は、初年度の平成27年度に実施した調査の内容を精査した。雨山の草稿や雨山あてに届いた書簡などを中心に約4500点の資料の存在を確認しているが、初年度はその全体像を把握するための調査および整理作業であったのにたいし、本年度はその内容把握および目録校正に注力した。 その結果、資料の過半を占めるのが雨山あての書簡であり、概数で2700通にのぼった。その多くが家族の間でのやりとりであったが、中国書画コレクターで東洋紡績社長の阿部房次郎(1868~1937)や書家の山本竟山(1863~1934)、画家の柚木玉邨(1865~1943)ら関西を中心とした書画鑑賞界の人士とのやりとりや、陳師曾(1876~1923)や劉炳照(生没年未詳)ら中国の書画家、詩人たちとの交渉も確認できた。 さらに、詩文の草稿類のなかには同時期に日本にもたらされた中国書画の鑑定・解説に類するものが数多く確認できた。たとえば、朝日新聞創業者の一人、上野理一(1848~1919)が収集した京都国立博物館上野コレクションにある伝沈周筆柘榴図の箱書きの草稿が含まれていることがわかるなど、調査対象の資料的価値を確定するに至った。これらの資料は、推敲の過程から近代日本にもたらされた中国書画についての鑑定の水準の高さをうかがうことのできる重要な資料となるものであった。 また、上記の成果の一部を6月に京都で開催されたAAS(アジア研究協会(米国))学会の分科会において、”The Modernity of Nagao Uzan’s Connoisseurship”と題する口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
このたび調査対象とする長尾雨山関連の資料点数が膨大であることが判明したため、当初の計画を見直して、目録の校正作業に注力した。たとえば、初年度は全体の点数を把握するための作業であったことから、草稿については冒頭数字のみを収録していた。しかしながら、資料群のなかでも中国書画にかかわる重要な資料約700点については重点的に見直しを行い、名称などを改めた。この作業には、西上実・京都国立博物館名誉館員の協力を得ている。 これに加えて、京都国立博物館が所蔵および寄託を受けている中国書画について、随時、長尾雨山の箱書きのある作品の調査もすすめた。東京国立博物館や大和文華館、澄懐堂美術館など国内の博物館・美術館や、海外では台湾の台北故宮博物院で関連する中国絵画を調査し、中間年度として研究を深めることができた。 なお、当初本年度に計画していた調査対象資料の撮影はまだ実施していないが、以上の調査、作業をとおして資料すべてを撮影する必要がないことが判明しており、本研究の進捗を阻害する懸念材料にはなっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第一の目的として当初計画に挙げた、長尾雨山関連資料を目録として公開することが最終年度となる次年度の課題である。 そのための作業は大きく分けて二つある。一つは現在作業中の仮目録の校正をひきつづきすすめてゆくことである。本年度の推進方策に挙げたように、名称の確定作業および資料内容を要約するキーワードなどの項目の充実を図ってゆく。もう一つは、同時進行で重要と判断した資料について重点的に撮影をすすめることである。これは本年度の推進方策では「文化財としての保存・活用を念頭にしたアーカイヴ機能の付与」を掲げたが、資料の精査をすすめた結果、家族間のやりとりも含まれる全資料を無選別に撮影する意義は少ないと判断したためである。近代日中文化交流における長尾雨山の業績を再検証するにあたり、その本質である中国書画研究にかかわる資料を中心に撮影をすすめてゆきたい。 本年度と同様に、調査により獲得した成果は、資料目録としての報告書刊行、学術論文や学会発表などにより公表する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は長尾雨山関連資料の目録精査に注力した結果、資料の写真撮影などに計上した機材購入費が未使用のまま残ったことが理由である。目録の精査は調査者本人が一人で行ったため、謝金など支出は発生していない。作業にあわせて必要な関連書籍の購入や国内外での作品調査の旅費を執行したのみで、金額の大きな支出は生じなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
長尾雨山関連資料の撮影をすすめるために、デジタル一眼レフカメラや画像データ整理のためのコンピューターや周辺機器など必要な機材を購入する。これにより本年度計上していた物品費を執行することになる。また、撮影や画像整理作業を効率的にすすめるために、博士課程在学者を念頭に作業補助者を確保することで謝金の支出が生じる予定である。次年度後半には、本研究の第一の目的である関連資料目録を主とする報告書を刊行するための出版費用が必要となる。 以上、比較的金額の大きい物品費と出版費用を確保したうえで、作業補助者の謝金支出額に応じて依頼する作業量を確定することが次年度の予算執行計画のかなめとなる。このほか、予算の執行状況を見極めながら、国内外の博物館・美術館など関連機関への作品調査にかかる旅費などもあわせて使用していきたい。
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