2017 Fiscal Year Research-status Report
日本社会党による国会質問の実証研究─楢崎弥之助文書の分析を中心として─
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15K16823
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
篠原 新 広島修道大学, 法学部, 准教授 (80608927)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本社会党 / 国会質問 / 55年体制 / 革新自治体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は第3年度として昨年度から引き続き文書・資料の収集および補修に加えて、国会議事録との照合に取り組んだ。 楢崎が最も活発に活動していた予算委員会委員在任中(1968年‐1977年)に注目して各種資料を読解したところ、1968年に当時の佐藤栄作首相が言及した非核三原則について、楢崎が質問をつくるために検討していたノートが発見された。これには、国会議事録には記載されていない「想定問答」も多く残されており、戦後日本政治の重要局面において楢崎がいかなる戦略をもって政府与党を追及していたのかが、かなりの程度把握できるようになった。 また、楢崎が安全保障問題のみならず、当時、東京をはじめとする大都市で台頭していた革新自治体にも強い関心を有していることが明らかとなった。そのため、楢崎が地元である福岡県や福岡市を念頭に置き、地域振興に関する国会質問もしていることが分かった。これらの質問は、安全保障問題のように政府与党を鋭く追及する内容とは大きく異なり、福岡の発展のために積極的な政策を行うよう要請する内容であった。福岡についての関心はその後も持続しており、楢崎が1983年の福岡県知事選における奥田八二氏(革新系)の当選にも関係していることが明らかとなった。 この奥田県政の性格について調査したところ、再分配政策を重視し財政赤字をもたらしたという革新自治体の一般的なイメージとは大きく異なることが分かった。そのため、2017年度の日本政治学会において、山田良介・九州国際大学准教授とともに「革新自治体における生活保護費の削減─奥田八二知事時代の福岡県を例として」というタイトルで報告を行った。また、この内容を論文にまとめ、雑誌に発表した。そのほか、楢崎の地元である福岡県で労働組合幹部を務めていた岩崎隆次郎元福岡県労働組合評議会事務局長にもインタビューを行い、オーラルヒストリーとして発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで文書・資料の収集およびそれらの補修を行ってきた。基本的には、資料を補修したうえで、撮影し画像データとしてHDDに取り込んできた。しかし、長い年月がたっており資料の判読が難しい箇所やその資料が書かれた年月を特定することができないことが多かった。また、感熱紙の文字が薄くなり、文字が読めないものも多くあった。さらに量が膨大であり、とくに撮影に手間がかかっている。こうした作業に多くの時間がとられたため、資料の収集およびそれらの補修についてはやや遅れている状況にある。 次の段階である国会議事録との照合については、楢崎の予算委員会委員在任時に限定して進めたことから、比較的順調に進んでいる。とりわけ、1968年の資料に関しては、保存状態も良く国会議事録とのつながりが把握しやすいため、この時期を優先して国会議事録との照合を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、文章・資料の補修および収集を行った後、引き続き、国会議事録との作成を行う予定である。これまでのところ、最も時間がかかっているのは、補修した後の資料を撮影することであるが、これについては専門業者に依頼することを予定している。また、楢崎をよく知る方々のうち存命の方がだいぶ減ってきたこともあるため、こうした人々に対するインタビューも行う予定である。すでに2018年4月には、渕上貞雄元社会党参院議員に対するインタビューを行っている。今後もこうしたインタビューを続け、楢崎による国会質問が社会党内外にどのような影響を与えたのかを把握したい。 また、これまでの調査で、楢崎が社会主義協会にも深く関与していたことが明らかとなった。1960年代の楢崎は、社会主義協会を含めた社会党の支持団体に対し、現状に合わせた改革を要求している。しかし、社会主義協会の分裂以降は、支持団体の改革を断念し、社会党議員に対して旧来の支持組織からの脱却を呼び掛けている。こうした政治過程はこれまで明らかになっておらず、この点についても楢崎の行動や戦略を分析する。
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Causes of Carryover |
2017年度は東京や福岡県へ出張し、資料収集やインタビューを行った。また、日本政治学会での発表も行った。しかし、2017年度は現在の所属機関に異動した初年度であり、授業や演習などの準備があり、研究計画の一部に遅れが生じた。とりわけ、資料の撮影が計画通りに進まず、物品費を中心に未使用額が発生した。 2018年度は、まず、前述の資料の撮影を進める予定である。これまでは研究代表者が資料の撮影を行ってきたが、今後は専門業者に依頼することを予定している。その後、国会議事録との照合や目録の作成に取り組む予定である。これにより、本年度未使用額を含めて、次年度の研究費を計画通りに使用することにしている。
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