2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16837
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Research Institution | Koyasan University |
Principal Investigator |
坂口 太郎 高野山大学, 文学部, 助教 (50724142)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 『愚管抄』 / 慈円 / 校訂 / 古筆切 / 青蓮院吉水蔵聖教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『愚管抄』とその著者慈円について、下記の調査・研究を進めた。 (1)【『愚管抄』の校訂】昨年度に引続き、『愚管抄』の校訂作業を継続した。さらに、その知見に基づき、「『愚管抄』校訂私考」(『古代文化』第68巻第2号)を発表した。これは、『愚管抄』の本文校訂の到達点とされる「日本古典文学大系」の校訂について、厳密な検討を加えた論文である。主に文明本・京都御所東山御文庫本を素材として、「古典大系」における誤字・脱字・衍字・句読点を明らかにした。また、「古典大系」が底本とした島原本には、仮名表記を漢字表記に改変した例が多く見られることを具体的に論じ、同写本が『愚管抄』の原態から大きく遠ざかった伝本であることを指摘した。 (2)【『愚管抄』の古筆切】塩見薫氏に代表される『愚管抄』の伝本研究では、古筆切の存在が閑却されてきた。しかし、現存する『愚管抄』の写本の書写年代が、悉く近世に降るという現状を鑑みるならば、中世写本の断簡である古筆切の存在は、『愚管抄』の原態を復原する上で重要な手掛かりとなる。そこで、『愚管抄』の古筆切についての情報を収集した。その結果、「古筆切所収情報データベース」で採録されている古筆切以外にも、重要な古筆切が伝存していることが確認できた。この成果については、いずれ発表する予定である。 (3)【慈円関係の聖教】近年、『愚管抄』について数多くの論著が発表されており、同書の研究は盛況のようにも見える。しかし、これらの研究には、慈円の関係史料を幅広く収集し、慈円や『愚管抄』を立体的に考察するという姿勢に欠けるものが多い。その意味では、半世紀前の赤松俊秀氏や多賀宗隼氏らの研究水準に比べて、大きな後退を生じていると言わざるをえない。かかる状況を改善すべく、東京大学史料編纂所に架蔵される青蓮院吉水蔵聖教のマイクロフィルムを閲覧し、慈円関係史料の把握につとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの校訂作業の成果を論文化するとともに、『愚管抄』の古筆切や慈円関係の聖教から新たな知見を得られる公算が大きいため。
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Strategy for Future Research Activity |
未収集の『愚管抄』写本の写真版を収集し、伝本研究・本文校訂に活かしていく。また、本年度に引続き、東京大学史料編纂所に架蔵される青蓮院吉水蔵聖教のマイクロフィルムを調査していく。
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Causes of Carryover |
紙焼き写真の収集に必要な金額が、予測していた額よりも若干低かったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度分として請求した金額と合わせて、関連図書・写真紙焼きの購入費などに充てる予定である。
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Research Products
(1 results)