2016 Fiscal Year Research-status Report
近世神聖ローマ帝国の宗派問題――複数宗派併存社会における帝国国制の機能の研究――
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15K16854
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
鍵和田 賢 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (70723716)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ近世史 / 神聖ローマ帝国 / ケルン都市史 / 宗教社会史 / 宗教紛争 / 宗教の共存 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、異なる信仰の者同士が、紛争を経つつもいかにして「共存」のシステムを構築していったのかを、近世神聖ローマ帝国都市ケルンを対象に明らかにしていくことである。とりわけ、近世神聖ローマ帝国の宗派併存体制を法的に規定したヴェストファーレン講和条約(1648年)が、ケルンの宗派紛争においてどのように運用されていたのか、個々の宗派紛争に帝国諸機関がどのように介入していたのかを明らかにする。 本年度の研究の目的は、上記の目的を達成するために前年度入手した史料を分析することであった。上記の目的を達成するために取り上げる事例として、前年度の史料調査の結果、1710年代に発生した居留民条令改定をめぐる紛争が適切であると判断した。「居留民条令」とは、都市ケルンにおいて市民権を持たずに商工業その他の生業に従事する住民の法的・経済的地位について規定したものである。カトリック都市ケルンの少数派プロテスタント住民は、17世紀初頭の市民権付与規定の厳格化により制度上市民権取得が困難となったため、市内では法的には「居留民」として扱われていた。従って、「居留民条令」の適用対象にはプロテスタント住民も含まれると理解されていたが、1714年の条令改定により、居留民が行える経済活動が大幅に制限されることとなった。この改定が、プロテスタント住民を意図的に狙った宗教的弾圧であるとして、プロテスタント住民が抗議したのがこの紛争である。 具体的な作業としては、プロテスタント住民側が、帝国議会での当案件の審議に際して議員に配布した資料集を基に、関係する都市条令や紛争に際しての帝国諸機関の通達、紛争当事者の主張などを分析した。これまでの分析の結果、紛争当事者の主張の根拠としてヴェストファーレン講和条約の規定が第一に援用されていたことが明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来計画していた、皇帝使節の活動および帝国議会での審議に関わる史料調査のためのドイツ・オーストリアへの出張について、校務の都合がつかず実施することができなかった。 また、ケルン市内での宗派間の日常生活に関わるトラブルについて、フィスカル裁判所の史料を用いて分析する作業については、ケルン市歴史文書館の改修工事の影響で史料の使用が出来ないため、今年度についても実施することが出来なかった。 以上の理由により、当初の研究計画よりも進捗状況が遅れる結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
フィスカル裁判所の史料を用いた事例研究については、ケルン市歴史文書館の再建工事が遅れており、研究期間終了までに史料を利用できない可能性が高い。しかし、この事例研究を通じて明らかにする予定であった紛争当事者の帝国法認識については、「居留民条令改定紛争」に関わる史料分析のなかで、ある程度明らかにすることが出来つつある。従って、この問題に関して研究計画の変更の必要はないものと考える。 「居留民条令改定紛争」の史料分析の過程で、プロテスタント住民側の帝国法認識についてはある程度明らかにすることができたが、カトリック都市参事会側の見解については依然不明確な点が多い。参事会の基本的立場は都市条令の文言などからある程度推測されるが、これらの条令は個別具体的な事柄を規定するのみであり、参事会の対プロテスタント政策の基本姿勢やプロテスタント住民側からの抗議をどう捉えていたのかなどについては必ずしも明らかにならないことが判明した。この点を明らかにしていくためには、参事会議事録や帝国議会審議に際して参事会側が作成した文書などを参照する必要がある。これらの史料の分析も今年度の重点的な作業課題となる。
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Causes of Carryover |
購入予定の図書に出版遅れが生じ、年度末までに出版が間に合わなかったため、当該図書の購入費用の分が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
出版が次年度に延期された図書の購入を含めた計画となる。次年度は、引き続き「居留民条令改定紛争」に関わる史料分析および成果発表が主な作業となるが、紛争に関わるケルン市参事会の姿勢の分析のために新たな史料の利用が必要になることが予想されるため、史資料の購入のための支出が必要となる。
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