2016 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・ジャスティス運動による規範形成とソーシャル・ネットワークに関する研究
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15K17003
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Research Institution | Takachiho University |
Principal Investigator |
五野井 郁夫 高千穂大学, 経営学部, 教授 (50586310)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 参加民主主義 / ハッシュタグ・アクティヴィズム / グローバル市民社会 / グローバル・ジャスティス運動 / 国際規範 / SNS / 非暴力 / グローバル・デモクラシー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、近年の国際関係論と多くの社会運動論が見落としている現実のグローバル・ジャスティス運動の文化的特性につき、デジタル・カルチャーと芸術表現を用いた非暴力的な規範変容的文化からなる「ポスト-新しい社会運動」(S. ホール)のグローバルな展開ならびにフォーマット伝播の理論化を進めるとともに、史料収集を行い、またフィールドワークをグローバル・ジャスティス運動の現場で行うことに成功した。 国境や地域を越えたグローバル・ジャスティス運動という現象が、グローバルな民主主義の形式として一般化しつつあることが、一連の研究と各地の定点観測的な参与観察のなかで明らかになってきた。そのなかでも非暴力を前面に掲げつつ、空間をアウェイではなくホームへと変えていくタギングやボムなどのグラフィティ、デモの際のプラカードやバナー、そしてコールやポップミュージック、EDMなどの音における世界標準化の方向性を、近年の現実の社会運動における各事例横断的なレパートリーからも確認することができた。 研究成果の一部については『ゲンロン』をはじめ数多くの学術雑誌等で公表した。さらにISA、日本政治学会等でも学会報告を行う機会を得た。くわえて各種新聞メディア、テレビ報道番組や講演会等、さらには『現代用語の基礎知識』でも公表し、積極的にアウトリーチにもつとめた。 初年度に引き続き、対象分野の先行研究の渉猟しつつ類縁集団の動態把握のための資料収集と現地でのフィールドワークから、国際美術展の定点観測によって表現されているイシューやレパートリー、美的次元における争点化の潮流について継続的な把握を行うことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2年度目である平成28年度は、当初の計画以上に研究が進展した。社会運動におけるフォーマットの洗練にかんして、Haus Konstructivが備える構成主義アルヒーフならびに、Topograhie des Terrorsでの史料調査を行い、一定の知見を得た。 くわえてグローバル・ジャスティス運動のフィールドワークとして、高江の反基地運動、パリのニュイ・デブー運動、韓国のソウルでの、「ろうそく革命」の瞬間に立ち会い、現地の研究者らの協力を得て、参与観察を行う機会に恵まれた。そこでは、非暴力という国際規範の浸透、マスメディアを意識したポップなプラカードの使用、タギングやボム、ステッカー、共通のカラーの使用など、既存のグローバル・ジャスティス運動の凝集性と伝播力を強化するためのレパートリーが開発され、定着していることを発見した。グローバル・ストリートカルチャーの結節点であるベルリンのアーバンネイションで、近年の都市におけるタギングとボムの傾向と戦術についてアーティストのフランコ・ファッソーリとアクセル・ボイドへのインタビューにも成功した。これらを通じて、グローバル・ジャスティス運動論と参加民主主義を基調としたグローバル・デモクラシー論の理論的刷新を可能にする知見を獲得した。 2年目までの成果として、International Studies Associations Asia-Pacific Conferenceでアラブの春以降のグローバル・ジャスティス運動に関するハッシュタグ・アクティヴィズム論文と学会報告を、また日本政治学会では、東浩紀が提示したSNSとビッグデータなどを通じた「一般意志2.0」の現実のデモクラシーへの適用である、ブロックチェーン等のテクノロジーを用いたリキッド・デモクラシーの理論化にかんする報告を行い、研究計画で示した以上の成果を広く江湖に問うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度はSikkink & Kim, "The Justice Cascade"(2012)やT. Risse, S. Ropp, & K. Sikkink, eds., The Persistent Power of Human Right (2013)でも継続採用された規範カスケードと螺旋モデルやコンプライアンスによる規範形成・維持メカニズムを発展させるべく、ソーシャル・ネットワークによって連帯した類縁集団の活動を組み込んだ、グローバル・ジャスティス運動による国際規範形成論と動員のレパートリー論の精緻化に努める。また、引き続き「ポスト-新しい社会運動」(S. Hall, 1999)のグローバルな展開ならびにハッシュタグアクティビズムなどの新たなグローバルな社会運動を惹起する文化フォーマットの生成と伝播の理論化を進めるとともに、フィールドワークや史料収集をグローバル・ジャスティス運動の現場で行う。
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Research Products
(17 results)