2017 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・ジャスティス運動による規範形成とソーシャル・ネットワークに関する研究
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15K17003
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Research Institution | Takachiho University |
Principal Investigator |
五野井 郁夫 高千穂大学, 経営学部, 教授 (50586310)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 民主主義 / グローバル・ジャスティス運動 / 国際規範 / 非暴力 / ハッシュタグ・アクティビズム / ライク・カルチャー / グローバル・デモクラシー / アセンブリ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は研究実施計画のとおり、ソーシャル・ネットワークによって連帯した市民や類縁集団の活動として、一国内の人権侵害や民主主義の危機等をNGOではない諸個人が世界大に訴えて発信し、 国際社会の関心を惹起することで世界政治に影響を及ぼす新たな現象としての、グローバル市民社会による国際規範形成の理論的刷新を行うことに成功した。とくにライク・カルチャー("like" culture:"いいね"文化)やブロックチェーンを用いたグローバル・デモクラシーについても考察を行うことができた。 今年度もSNSを駆使した香港返還20周年の民主化運動のフィールドワークを行うとともに、反トランプのウィメンズマーチやMe Too運動などの非暴力運動、ストリートでのレパートリーの源泉たるクラブカルチャーと芸術表現、ライク・カルチャーの伝播、グローバルな極右運動の隆盛など、本研究の理論枠組みが現実のグローバルな政治現象として展開されているのを、国内外での共同研究や情報共有なども十分に活用することで、史的事実として検証した。これらから引き続き、アラブの春以降コラテラルに生じた様々な参加民主主義的契機が、ソーシャル・メディアを通じてアセンブリを形成しグローバルに与えた影響に関する手がかりを得た。
研究成果の一部は、日本国内の日本平和学会での基調報告やCULTURAL TYPHOONなどの国際学会での報告の機会を得るとともに、査読誌掲載論文2本をはじめとして、積極的に学術雑誌等に公表した。さらに各種新聞メディア、各種報道番組や講演会等でも成果を公表し、アウトリーチにもつとめた。 前年度に引き続き、対象分野の先行研究の渉猟しつつ類縁集団の動態把握のための資料収集と現地でのフィールドワークから、国際美術展の定点観測などからもイシューやレパートリー、美的次元における争点化戦術の潮流について継続的な把握にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3年目である平成29年度も、当初の計画以上に研究が進展した。近年グローバルに展開されている国際政治事象としてのグローバル・ジャスティス運動の展開が、本研究の理論が示した射程の妥当性を裏書きしている。 そのさい、SNS上での"いいね"やシェア数の有無が、規範の伝播と普及を左右するライク・カルチャー("like" culture:"いいね"文化)や、社会運動論ならびにル・ボン以來の群衆論における指導者としての規範の推進者とフォロワーたる民衆の関係についても、ジュディス・バトラーやアントニオ・ネグリらのアセンブリー論を継受しつつ考察を行うことができ、新たな理論を切り開きつつある。 国内外のソーシャル・ネットワークにかんするプロジェクト等の国際研究や政治表象を扱った世界中のワークショップ等に継続的に参加し、3年目までの研究成果を国内外の様々な媒体で順次公表した。 とくに29年度は、ドイツのカッセルで政治表象を扱うドクメンタ等での現在の社会運動にかんするワークショップとシンポジウムに継続的に参加することで、新たなレパートリー生成の契機を確認するとともに、香港の雨傘革命運動のフィールドワークを継続して行うなかで香港返還20周年の民主化運動の参与観察にも成功した。 さらに研究協力者を通じてロシア大統領選に際してのインターネットを駆使した選挙運動レパートリーの動態把握や、海外でネオナチなどのファシズムの復活やヘイトスピーチの隆盛といったSNSを通じた負の社会運動についても、オランダの極右政党である自由党のヘルト・ウィルダース党首の単独インタビューに成功し、トランスナショナルな極右言説の分析ならびに諸レパートリーについての知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、過去3年間の一次資料の収集と分析に基づく理論化によって提示した理論の検証と概念の精緻化を行い、今後のさらなる研究の深化へとつなげる。また、引き続き追加資料の収集と分析に基づき修正に充てる。 具体的には、既存の社会運動論研究が暗黙のうちに想定している国内類推の陥穽から免れることにくわえ、ハッシュタグアクティビズムなどのSNSにおけるライク・カルチャーを媒介としたグローバル・ジャスティス運動によるイシューのフレーミングと国境横断的な伝播が、グローバル・デモクラシーの実現として国際規範形成に与える影響を明らかにすることで理論枠組みを提示する。これらの知見から国内外の国際関係論におけるグローバル市民社会論研究と社会運動論、そして国際規範研究に新たな視点を提供する一定の理論化をこの段階までに行う。 また、最終年度もグローバルに連帯した諸国内での類縁集団調査ならびに、各運動のレパートリーにとってのアプロプリエーションの源泉である文化や芸術等の分析、ライク・カルチャーの概念化と動向分析を継続し、グローバル・ジャスティス運動のさらなる動態把握を引き続き努める。 これら理論・実証研究の成果は30年度中に日本を代表する美術画廊である日動画廊でのギャラリートークや、日本初の文化政治フェスである “THE M/ALL”での登壇、さらに各学会等において報告し、論文や著作、新聞・雑誌媒体はもちろん、講演会やフォーラム、シンポジウム等を通じて研究成果のアウトリーチ活動も行い、本研究の成果を広く江湖に問う。
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Causes of Carryover |
購入予定の書籍の出版期日延期ならびに、予定していた海外研究調査につき当該年度ではテロ等の治安情勢の悪化が懸念されることが外務省海外安全情報等で確認され延期したため。
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Research Products
(11 results)