2015 Fiscal Year Research-status Report
超電導バルク体の磁気浮上を用いた新たな免震構造システムの研究開発
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15K18163
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Research Institution | Hachinohe National College of Technology |
Principal Investigator |
佐々木 修平 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (30707261)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超電導 / 免震 / 磁気浮上 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本は4つのプレート上に位置しており,世界でも有数な地震大国である。近年,死者を伴う大規模地震が約5年間隔で発生し,多大なる被害がもたらされ,非常に長い年月と費用(エネルギー)を復旧に費やしている。今後も東海地震をはじめ大都市圏における大規模地震の発生確率が高く,今まで以上に地震対策を施すことが重要となる。そこで,地震被害を抑制するために,本研究では,超電導バルク体と永久磁石の磁気浮上技術を用いて建築物や設備機器を浮上させ,被害をもたらす水平方向の振動を完全に排除する(大きな免震効果が得られる),既存の免震装置とは全く異なるタイプの免震装置の開発を手がけている。 磁気浮上型超電導免震装置の実用化に向けて,重要要素となる1)磁気浮上力の高効率化,2)振動除去効果の確立(水平・鉛直振動伝達抑制),3)冷却システム技術の構築,これらの設計指針を確立することが課題である。特に,磁気浮上力は免震対象物の許容重量,水平振動伝達抑制(振動除去)は本提案装置の免震性能を示す重要な事項である。これまでに,超電導バルク体に働く磁気浮上力に対する諸特性を検討し,超電導バルク体に働く浮上力が超電導バルク体に鎖交する全方向の磁束密度の大きさと勾配に依存することを明らかにしてきた。この結果を基に,初年度では効果的に磁束密度が得られる永久磁石配列,および磁性体を用いた磁束密度操作によって磁気浮上力の向上を図った。その結果,Halbach配列を用いることで,大きく磁気浮上力を得られることがわかり,全長480 mmのHalbach配列永久磁石レールを製作した。製作した永久磁石レールによる磁気浮上力の実測は,これまでの磁極配列(N極S極交互配列)よりも3倍以上の力が発生することがわかった。また,磁性体を用いた超電導バルク体に鎖交する磁束密度操作では,単位面積当たりの磁気浮上力を2割増加させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本提案装置を実用化するためには,建築物や設備機器を浮上支持するための大きな磁気浮上力が必要となる。初年度において,効果的かつ効率的に磁気浮上力が得られる構成方法について検討した。 超電導バルク体に働く浮上力は永久磁石レールの磁束密度の大きさと勾配によって定められるため,効果的に磁界が発生する永久磁石配列を解析によって検討した。一般的に考えられるN極S極を交互に配列させるAlternate配列では,超電導バルク体が存在する永久磁石(レール)の上空5 mmにおいて最大約0.12 Tの磁束密度が得られた。一方で,今回磁極を向かい合わせ一方向の上部面に磁束を寄せ集めるHalbach配列と呼ばれる永久磁石配列を採用した。Halbach配列を用いることで,Alternate配列の約3倍の最大約0.38 Tの磁束密度が得られることが分かった。そこで,全長480 mmのHalbach配列永久磁石レールの製作を行った。 製作した永久磁石レールを基に磁気浮上力の測定を行った。また,超電導バルク体に鎖交する磁束密度を大きくするために,永久磁石レールと対向する超電導バルク体の側面に薄板の永久磁石,線材コイルを設けた。その結果,超電導バルク体のみの場合,Halbach配列を用いることで,Alternate配列の約3倍もの磁気浮上力が得られることが分かった。また,超電導バルク体に線材コイルを巻きつけた場合には,磁気浮上力の向上に効果が見られなかった。一方で,薄板の永久磁石を設置することで大きな磁気浮上力を得ることに成功した。このように,永久磁石配列や超電導バルク体に鎖交する磁束密度を操作することで,単位面積当たりの磁気浮上力を約8 kN/m2 (機器装置の免震レベル)にまで向上させることに成功した。 以上を踏まえ,磁気浮上力の向上が遂行できていることから,おおむね順調に研究が進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で提案する磁気浮上型の超電導免震装置は,水平方向における振動源との磁気結合がないため,免震対象物への水平方向振動の伝達を理論上完全に排除することができる。しかし,小型モデル装置において風などの擾乱によって,免震対象物の静止安定浮上が困難となる場合があることが確認された。そのため,静止安定浮上を実現する制動機構を確立・導入することが必要となる。しかし,単純な制動機構では静止安定浮上は可能となるが,振動源と浮上部間に新たな結合が生じて免震対象物へ振動が伝達しやすくなることが予想される。このため,振動時の振動源と浮上部の結合が超電導免震装置特有の振動伝達特性に影響を及ぼさない構成を検討し,静止安定浮上の実現と水平方向振動を印加した際の振動伝達特性(免震性能)を評価する。 また,地震動は水平成分のみならず,鉛直成分も含まれており,三次元振動を考慮する必要がある。超電導免震装置において水平方向の振動伝達を排除できたとしても,鉛直方向は磁気浮上支承のために磁気的に結合しており,共振現象によって浮き上がりによる被害を招く恐れがある。そのため,鉛直振動に対して効果的な非接触ダンパー機構を検討する。 以上より,今後は,製作したモデル装置に制動機構を付随させ,大振幅・長周期振動を印加し,基礎の振動に対する免震対象物への水平・鉛直振動伝達特性(免震性能)を評価する。水平振動に関しては,いかなる周波数においても共振しない,つまり免震対象物への振動伝達が1以下となることを目指す。鉛直振動に関しては,振動伝達が1となるように振動増幅を抑えることを目標とする。
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Causes of Carryover |
磁気浮上型超電導免震装置の実用化のためには,免震性能(水平・鉛直振動除去効果)を示す必要がある。そのためには,モデル装置を試作し,水平振動ならびに鉛直振動を印加しなければならない。しかし,現在,モデル装置を製作中であることや,本研究室において加振機を所持していないため,振動印加試験が困難な状況にある。そのため,加振機の購入もしくはレンタルする必要があるが,モデル装置の重量,サイズ,印加振動レベルによって加振機の性能を選定しなければならないため,モデル装置製作後に簡易試験を行い,その結果を基に予算内の加振機を決定する予定である。以上を踏まえ,加振機および測定機器の予算を少し高めに計上して,初年度の科研費の使用を抑え,翌年度に繰り越すようにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
水平・鉛直振動印加試験のために加振機と測定機器を購入する予定である。その予算計上額は105万円である。その内訳は加振機に50万円,電源に25万円,ファンクションジェネレータに10万円,オシロスコープに10万円,データ処理用パソコンに10万円である。加振機の性能によって購入額が異なることが予想されるため,来年度(三年目)の予算も含めて検討を行う。また,納品までに2ヶ月以上の時間を要する恐れがあるため,早期にモデル装置を完成させ,初期実験を進めていく予定である。
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