2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞間シグナル伝達を介した神経幹細胞の運命決定機構の解明
Project/Area Number |
15K18548
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
當麻 憲一 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (30749205)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞分化 / 細胞間シグナル / 大脳皮質 / 神経幹細胞 / 上層ニューロン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は大脳皮質の上層ニューロンの分化決定に必要な「ニューロン-幹細胞間シグナル伝達」の分子メカニズムを解明することを目的としている。大脳皮質上層ニューロンは高次脳機能に関与しており、その欠損は様々な精神疾患の原因となることが報告されているが、その分化決定機構については明らかにされていないのが現状である。 神経幹細胞は発生の進行に伴い、深層ニューロン->上層ニューロンをこの順序で産生する。我々は、この深層/上層ニューロン産生切り替え時期に上層ニューロンの分化を開始させるPOU転写因子Brn2の発現パターンが細胞質から核内に変化することを免疫組織染色法により見出したことから、Brn2の核内移行が深層から上層ニューロン産生へと切り替えるスイッチとして働いていると考えた。 次にBrn2の細胞質から細胞核への移行を阻害する因子Karyopherin alpha2 (KPNA2)と深層/上層ニューロン産生切り替えについて解析を行った。まず、KPNA2はBrn2が細胞質に局在している深層ニューロン産生時期の神経幹細胞で発現が高く、Brn2が核内局在する上層ニューロン産生時期では発現が低下することを見出した。そして、この発現低下を阻止することで深層/上層ニューロン産生切り替え時期が遅れること、逆にKPNA2の早期の発現抑制によって上層ニューロン産生を誘導できることを見出した。これらの結果からKPNA2の発現抑制時期が深層/上層ニューロン産生切り替えを制御していると考えられた。さらに、細胞間シグナル源である深層ニューロンを除去すると、KPNA2の発現抑制が阻止され、深層/上層ニューロン産生切り替えが遅れることを見出した。 これらの結果から、ニューロン-幹細胞間シグナルはKPNA2の発現抑制を介して上層ニューロン産生を開始させているという新規の上層ニューロン決定機構を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、翌年度の予定に含まれているシグナル下流解析を前倒しで進めることができた。これはシグナル下流因子であるKPNAのノックアウトマウスを共同研究として早く入手できたことに起因する。一方で、当初予定していた細胞間シグナル伝達経路の同定が遅れているが、これは翌年度予定の解析を今年度に実施したことによるもので計画全体で見た場合の進捗には影響しないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までで、上層ニューロン分化を開始させる細胞間シグナルの下流経路としてKPNA2-Brn2という新規の分子経路を明らかにすることができた。次年度ではこの経路を活性化、すなわちKPNA2の発現抑制を誘導する細胞間シグナルがどこで、いつ、どのような分子を介して伝達されているのかを明らかにする。 シグナル伝達機構については、現在までの知見及び予備実験から細胞接触依存性シグナルを想定している。まず、KPNA2の発現抑制が細胞接触依存であるかを直接的に検証するために、分化ニューロンと神経幹細胞を結合していると報告のある既知の因子をマウス胎仔脳への遺伝子導入によりノックダウンを行うことで接触を人為的に解除し、その際の深層/上層ニューロン産生切り替えの時期を検証する。この解析では導入する遺伝子濃度を低用量にすることでクローンレベルでの操作も可能なため、細胞間シグナルの伝達範囲も解析することができる。 また、いつ、どこで分化ニューロン-神経幹細胞間接触が行われるかを動的に解明するため、研究実施計画通りシグナルの送り手側の深層ニューロンと受け手側の神経幹細胞をそれぞれ異なる蛍光色素で標識し、大脳皮質スライス作成後ライブイメージングを行い、深層/上層ニューロン産生切り替えが起こるときのニューロンと神経幹細胞の接触動態を解析する。 これらの解析を通して、上層ニューロン分化時期を決定するKPNA2-Brn2経路の活性化に必要な上流因子と細胞機構を同定し、細胞間シグナル伝達の全容の解明を推進していく。
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Causes of Carryover |
本年度に予定していた、大脳皮質スライス培養を用いた神経幹細胞と分化ニューロンのタイムラプスイメージング実験が実験機器の関係で予定していた回数行えなかったことに起因する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度も引き続き当該実験を進める予定であるので、そのための費用として使用する。
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