2015 Fiscal Year Research-status Report
常磁性プローブを用いた呼吸鎖における電子伝達機構の解析
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15K20829
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋尾 智英 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80740802)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電子伝達 / 呼吸鎖 / NMR / 溶液構造 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では酸化的リン酸化における電子伝達経路の最終段階を担うシトクロム c (Cyt c)-シトク ロム c オキシダーゼ (CcO) 複合体の立体構造解析・機能解析に対し,常磁性プロー ブ法を用いた最先端の NMR 法を主体とした戦略により取組む.これまで高分子量膜タンパク質 CcO を介したダイナミックで過渡的な相互作用のために X 線結晶解析法・NMR 法のいずれの応用も阻まれてきた.本研究では,NMRを用いた立体構造解析,相互作用解析,ダイナミクス解析によるCyt cの解析に加え,常磁性ランタニドプローブ法によって得られる長距離間の定量的立体構造情報に基づいたCyt c-CcO 複合体の立体構造解析に取り組む.それによって, (i) Cyt c から CcO へと、2 つのタンパク質間でどのように電子が受け渡されるのか? (ii) 効率的な電子伝達のために不可欠な、速く正確な分子認識がどのようにして可能になっ ているのか? (iii) どのようにして Cyt c の酸化還元状態が見分けられ、結合が制御されているのか?などの重要な問題の解明を目指す. 本年度は主にヒトCyt cに対するNMR立体構造解析・ダイナミクス解析によって,どのようにしてCyt cの酸化状態・還元状態の差異が見分けられているのか,その詳細なメカニズムの解明に取り組んだ.酸化状態・還元状態のそれぞれのCyt cについて溶液NMR法を用いて立体構造決定し,2状態間の立体構造の差異を明らかにした.さらにNMR緩和分散法によってミリ秒~マイクロ秒のタイムスケールでの構造揺らぎを観測した結果,CcOとの相互作用部位の背面に位置する領域が揺らいでいることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,NMRを用いた立体構造解析,相互作用解析,ダイナミクス解析によるCyt cの解析に加え,常磁性ランタニドプローブ法によって得られる長距離間の定量的立体構造情報に基づいたCyt c-CcO 複合体の立体構造解析に取り組む. 本年度は主にヒトCyt cに対するNMR立体構造解析・ダイナミクス解析を行った.酸化状態および還元状態のCyt cを調整し,NOE情報に基づいて溶液構造を決定した.立体構造を比較したところ,CcOとの結合面において2状態間での主鎖構造の差異があることが明らかになった.この立体構造の差は2状態間の化学シフト差ともよく対応しており,有意な差であると考えられる.酸化状態の化学シフトは,ヘム鉄による常磁性効果によりpseudocontact shift (PCS)などの影響を受けるが,磁化率テンソル解析によって常磁性効果の影響を差し引いたのちに還元状態の化学シフトとの比較を行った.さらにNMR緩和分散法によってミリ秒~マイクロ秒のタイムスケールでの構造揺らぎを観測した結果,CcOとの相互作用面は比較的硬い一方で,相互作用面の背面に位置するHis33を中心とした領域から構造揺らぎが観測された.His33を他のアミノ酸に変異させたところ電子伝達活性に顕著な影響を与えたことから,相互作用面から離れたHis33周辺の領域が電子伝達の制御に重要な役割を果たしている可能性が示唆された.上記の研究成果を国際誌に発表した (Imai et al. BBRC 2015). また,Cyt c-CcO複合体の構造解析へ向け,CcOの発現系・精製系を整備した.これまでは生体から精製されたウシCcOを用いてCyt cとの相互作用実験,活性評価などを行っていたが,常磁性ランタニドイオンの固定化のためには変異体を作成する必要がある.これまでにコレラ菌を用いたCcO発現系を確立し,ナノディスク中にCcOを埋め込んだ状態で精製することに成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は常磁性ランタニドプローブ法を用いたNMR法によるCyt c-CcO複合体の構造決定へ向け研究を進める.これまでは生体から精製したウシCcOを用いてヒトCyt cとの相互作用解析を進めてきたが,今後CcOの変異体の調整を可能にするために遺伝子組み換え体による発現系を整備した.常磁性ランタニドプローブ法の応用のためにはランタニドイオンをタグを用いてCcOに固定するの必要があるが,そのためにはCcO表面にCysをアミノ酸変異により導入し,ジスルフィド結合を介してタグを導入する必要がある.これまでにコレラ菌を用いたCcO発現系を確立し,ナノディスク中にCcOを埋め込んだ状態で精製することに成功し,Cyt cとの電子伝達活性が保持されていることを確認した.さらにコレラCcOへ電子を供与するCyt c4についても発現・精製系を確立し,良好なNMRスペクトルを取得可能であることを確認した.今後はCyt c4についてNMR信号帰属,単体での立体構造決定と進める.信号帰属の後,NMR滴定実験によってCyt c4上のCcOとの相互作用面を決定する. CcOについてはランタニド結合タグを固定するためのCys変異体を設計する.ランタニドイオンを固定したCcOをCyt c4へ滴定し,PCSやRDCなどの常磁性効果をCyt c4から観測する.PCSやRDCなどの異方性常磁性効果から立体構造情報を取得するためには,通常ランタニドイオンを固定したタンパク質 (ここではCcO) のNMR信号から常磁性効果を観測し磁化率テンソルを決定する必要があるが,ランタニド結合タグを用いた場合,磁化率テンソルを高精度で予測することが可能である.CcOのNMR信号を観測することなく磁化率テンソルを予測し,Cyt c4のNMR信号から観測した常磁性効果に基づいて複合体の立体構造を決定する.4~5箇所程度の複数の部位にタグを固定し複数のデータセットを取得することによって、より高精度での立体構造決定を行う.
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Causes of Carryover |
基金であるため,年度末に消耗品の大量発注などで無駄遣いをせず,年度の切り替え時期に必要なもののみを購入したため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
安定同位体試薬やプライマー合成,チューブやフィルターなどの消耗品などに使用する.
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Research Products
(2 results)