2017 Fiscal Year Research-status Report
ポピュラー音楽による「東ドイツ」アイデンティティの形成
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15K21047
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
高岡 智子 龍谷大学, 社会学部, 講師 (80552835)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ポピュラー音楽 / 東ドイツ / 文化政策 / アイデンティティ / 文化的記憶 / 娯楽 / 冷戦 / ロック |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、東ドイツのポピュラー音楽に関する「保存」、「普及」、「教育」に焦点を絞り、2月下旬から3月中旬にかけて約1ヶ月間、ベルリン及びクレペリンでインタビュー調査と資料調査を実施した。 インタビュー調査は、クレペリンにある東ドイツロック博物館(Ostrockmuseum)、東ドイツ時代にポピュラー音楽専門のミュージシャンを養成していたフリードリヒスハイン・クロイツベルク音楽学校でおこなった。 資料調査は、ベルリンの教育史研究図書館(BBF:Bibliothek fuer Bildungsgeschichtliche Forschung)、ベルリン州立文書館、フンボルト大学図書館、フリードリヒスハイン・クロイツベルク音楽学校資料室で実施し、東ドイツ独自の芸術ジャンル「娯楽芸術」に関する資料、東ドイツの音楽教育の歴史研究に関する資料、さらにポピュラー音楽教育の指導要領に関連する一次資料を収集することができた。 当該年度の成果は、論文「東ドイツが〈創った〉ポピュラー文化―若者、デーファ(東ドイツ映画)を観に行く」として書籍『地域主権の国 ドイツの文化政策 人格の自由な発展と地方創生のために』(美学出版、2017年9月)に掲載された。さらに、第29回日本ポピュラー音楽学会年次大会(2017年12月2-3日 於関西大学)で「ポピュラー音楽の制度化―冷戦期から 2000 年代までの『教育される』ドイツ・ポップスの成り立ち―」について発表した。また、シンポジウム「芸術家の肖像-文化的記憶・評伝・映画」(2018年2月20日 於神戸大学)では、「ドイツポピュラー音楽と文化的記憶―亡命ユダヤ人作曲家の映画音楽からポップアカデミーによる国家介入型ポップスへ―」について講演し、本研究を文化的記憶という文脈から検討するよい機会になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、ベルリン及びクレペリンでのインタビュー調査と資料調査、および現地と日本における学術交流によって十分な成果を挙げることができた。東ドイツのポピュラー音楽に関する制度化と音楽教育について2件の口頭発表をおこない、ポピュラー文化としての東ドイツ映画とその音楽に関して論文1本を執筆した。 東ドイツロック博物館の学芸員とフリードリヒスハイン・クロイツベルク音楽学校校長へのインタビューが実現したため、当初予定していたミュージシャンへのインタビューは延期した。音楽学校の実態を把握した後のほうが、効果的なインタビューが実施できると判断したからである。
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Strategy for Future Research Activity |
インタビュー調査と資料調査をさらに継続し、国家による文化政策と実際の現場というふたつの方向から東ドイツのポピュラー音楽と音楽教育について考察する。具体的には、東ドイツで活躍した現役のミュージシャン、東ドイツのポピュラー音楽専門のラジオDJ、ドイツ初のポピュラー音楽専門の高等教育研究機関マンハイムのポップアカデミーでのインタビューを予定している。資料調査は、ベルリン州立文書館(Landesarchiv)、フンボルト大学図書館、フリードリヒスハイン・クロイツベルク音楽学校資料室で実施する。 また本研究の後半期に入るため、本研究のグローバル展開のための土台を形成することを目指す。音楽人類学者であるデヴィット・エミール・ヴィックシュトロム氏(マンハイム・ポップアカデミー教授)を中心として、日本とドイツの研究者のあいだの学術ネットワークを構築する。また、本研究の成果として、東ドイツのポピュラー音楽に関するインタビュー調査、一次資料の分析、考察を集大成し、現在の「東ドイツ」アイデンティティという切り口からドイツにおける東ドイツポピュラー音楽のあり方について著書出版の準備をする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、1年半の育児休業による研究中断があり、その間に予定していたドイツにおけるインタビュー調査と資料調査のすべてを当該年度中におこなうことができなかった。そのためミュージシャンへのインタビュー調査や文書間での一次資料調査などについては、次年度に繰り越して実施する。
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Research Products
(3 results)