2018 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における衛生政策の展開―腸チフス予防のためのインフラ整備を中心に―
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15K21254
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
星野 高徳 琉球大学, 国際地域創造学部, 准教授 (00749260)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 屎尿処理 / 下水処理 / 農村還元処分 / 都市衛生 / 都市近郊農業 / 屎尿流注所 / 屎尿貯溜槽 / 浄化槽 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近代日本において、伝染病予防のための公衆衛生政策が大都市から地方都市、日本内地から植民地へと拡大した過程を検討することにより、各都市がそれぞれの財政状況、技術水準に応じて都市衛生関連のインフラを整備した過程、各都市における公衆衛生政策の相互関係を明らかにすることである。 2018年度においては、戦前期名古屋市に関する研究論文を執筆、校正を行い、『社会経済史学』に掲載された。また、東京市・大阪市・名古屋市に関する事例を比較し、戦前期日本における屎尿処理政策について、2018年6月の政治経済学・経済史学会博士論文報告研究会、9月に名古屋大学で開催されたワークショップで報告し、各都市で下水処理化の方針、屎尿処理政策に相違が見られた要因を考察した。 加えて、2018年度においては、戦後日本における屎尿処理の変遷についても調査を行った。『下水道年鑑』、『厚生白書』、『日本の廃棄物処理』などの白書、統計に基づいて、処理方法の変化を調査するとともに、『公衆衛生』、『国民衛生』、『農村文化』、『水道協会雑誌』、『生活と環境』などの雑誌記事に基づき、各処理方法が選択された経緯、要因について考察した。戦後、都市化や化学肥料の普及とともに農村還元処分の割合が減少し、海洋投棄などの不衛生処理が増加することになったが、公共下水道、屎尿消化槽、浄化槽などの処理方法を併用することによって、徐々に衛生的な処理方法を確立していった過程を明らかにした。この成果については、2018年9月の廃棄物資源循環学会研究発表会で報告し、2019年度には社会経済史学会全国大会で研究報告するとともに、著書・論文の執筆も進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実施計画に記載した東京市・大阪市・名古屋市の屎尿処理に関する資料収集、資料の検討を行い、名古屋市に関する論文を完成させるとともに、3市の比較を通じて、戦前期日本の屎尿処理政策、下水処理化の方針がどのように変化したのかを考察することができた。また、戦前の事例で得られたことを現代の下水処理と結びつけて考えるため、戦後の下水道整備、屎尿処理政策の変化についても調査を行った。このように、名古屋市の事例と戦後の統計調査については順調に進展している。 しかし、京都市、神戸市、横浜市、台北市の事例や戦後の各都市に関する具体的な調査については、それほど進んでいないため、学会報告や著書・論文の執筆行う中で、調査を続けていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
東京市・大阪市・名古屋市以外の都市に関する事例研究を積み上げるとともに、白書や統計、雑誌記事に基づき、戦後の屎尿処理政策の変化を調査することにより、戦前から戦後にかけて、衛生面、財政面で有用な処理方法をどのように考案したのかを考察する。 2018年度は学会報告等で東京市・大阪市・名古屋市に関する比較を行ったことから、2019年度はその成果を深めるため、他の都市との比較、各都市の地形や財政状況の詳細な比較を実施する。こうした比較研究により、各都市の政策の共通点、相違点を指摘し、共通点や相違点が生じた過程、要因について明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初は東京市・大阪市・名古屋市に関する比較研究、戦後の屎尿処理政策に関する研究を学会等で報告するとともに、各都市の調査や著書の執筆準備などを行う予定であったが、実際には戦前の名古屋市、戦後の屎尿処理政策に関する資料調査、学会報告などに重点を置いたため、旅費や図書・資料の購入などについては当初の予定額を下回ることになった。 2018年度は当初予定していた学会報告や調査を十分に行うことができなかったが、2019年度は夏季休暇中や年度末の時期に東京、名古屋、京都、台北などで資料調査を行うとともに、戦前期の比較研究や戦後の屎尿処理政策について学会で成果を発表する。 2019年度の使用計画としては、東京、大阪、名古屋、京都、台北などで学会報告、資料調査を行うため、交通費や滞在費、複写代等に使用する。また、学会報告や著書・論文の執筆に向けて、戦前から戦後の都市衛生及び農業・肥料関連の図書・資料の購入にも使用する。
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Research Products
(3 results)