2016 Fiscal Year Research-status Report
翻訳の歴史性と歴史批判機能:20世紀フランス・ドイツにおける思弁的翻訳論の研究
Project/Area Number |
15K21557
|
Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
西山 達也 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40599916)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ハイデガー / ベルクソン / 三木清 / 翻訳の思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀の哲学においては、翻訳という営みは、単に異なる領域間の記号・メッセージの移動にとどまらず、歴史的遺産を継承する行為、歴史的な連続性を確立するとともに、非連続性ないし断絶を刻み込む行為、そして過去と現在に対する批判の様態として積極的に問い直された。本研究は、20 世紀のドイツ・フランスを中心に展開した「翻訳」をめぐる思想の潮流が、(1)いかなる歴史性の概念を前提としていたのか、また、(2)この思想潮流が人文・社会科学の諸領域における歴史研究(哲学史、宗教史、比較文化史、政治哲学、神学、等)と相互に影響しながら、いかなる仕方で歴史性の概念を批判・吟味し、現代における生存の様態を照射するとともに、「到来」の可能性を示唆したのかを解明しようとするものである。本年度は、前年度に開始した(1)の作業を引き続き遂行するとともに、(2)の作業に本格的に着手した。 20世紀ドイツ哲学において翻訳の思考がどのように歴史性の概念を批判・吟味したかについては、前年度に引き続きマルティン・ハイデガーの「事実性」の概念についての研究をおこない、その成果を口頭発表した。また、ハイデガーの歴史哲学的思考に多大なインパクトを与えたことで知られるアンリ・ベルクソンの「時間」概念について調査し、これをハイデガーがいかなる形で批判的に受容したかを検証した。ベルクソンとハイデガーを蝶番としつつフランスとドイツにおける20世紀の歴史哲学の思想潮流がどのように交叉しているかを検証すべく、本研究では、さらに、フランス・ドイツの思想史を同時代的に摂取(コミット)した日本の哲学者三木清の事例を参照した。ハイデガーにおける「事実性」の概念と対比することによって、三木清の思考の普遍性と特殊性を問うべく雑誌論文を寄稿した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究実施の第2年度であり、当初の計画にしたがって、資料の読解、口頭発表、雑誌への論文寄稿を実施した。ハイデガーの『存在と時間』を中心とする時間性の問いへの考察(主としてベルクソンに対する応答の文脈において)、歴史批判の思考およびハイデガーによる翻訳への問いについては口頭発表をおこなった。また、これと並行して、20世紀フランス・ドイツの歴史哲学の展開に独自の仕方で応答した三木清の思想をめぐって、英語論文を執筆し、「History Today」と題された英語雑誌の特集号に発表するという形で、成果を世に問うことができた。これは、フランス・ドイツ哲学研究から出発しつつ、本研究を専門領域の枠外に向けて発信する意義を有するものである。さらに、翻訳の問いを思考するうえで根本的な重要性をもつ「イメージ」と「言語」の関係をめぐる問題提起として、「絵を見る―絵を読む」と銘打ったシンポジウムを開催し、「veritas filia temporis」を発表した。これもまた、哲学・思想史の研究を横断的な研究へと開く意義を有するものである。以上の理由から、本研究の進捗状況を(1)と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1-2年度目は当初の計画に従い研究を遂行し、第2年次には本研究の中間段階での成果を世に問うべく英語論文の発表もおこなった。今後は、当初の予定通り、20世紀フランスにおける翻訳の思想をめぐる研究を重点的におこなう。
|
Causes of Carryover |
物品費の変動に伴う端数である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費の変動に伴う端数であるため使用計画に変更はない。
|