2016 Fiscal Year Research-status Report
ジェンダー不公平社会からの脱却:性別役割分業と出生についての日独蘭国際比較研究
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15K21671
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
福田 節也 国立社会保障・人口問題研究所, 企画部, 主任研究官 (90409433)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジェンダー / 家事時間 / 育児時間 / 結婚満足度 / 日本型雇用 / 雇用システム |
Outline of Annual Research Achievements |
国際比較分析においては、各国における現状の理解や先行研究の整理が欠かせない。平成28年度においては、文献研究を行い、各国におけるジェンダー不平等と社会的要因についての考察を行った。さらに、昨年度入手したデータを元に日本の現状を中心とした記述的分析を行った。今年度における成果をもとに、3つの国際学会にて報告を行い、全米4つの大学で6回の講演を行った。 OECD諸国に比べて、日本におけるジェンダーの平等性が低いのは、政治と経済の分野におけるジェンダー平等が低いためである。とりわけ政治分野において日本とドイツ・オランダとの差が大きく、経済分野においては、管理職をはじめとする指導的な立場における女性割合に大きな差が生じている。日本では長時間労働を前提とした正社員の雇用慣行があり、これが男女の昇進の差に強い影響を与えている。一方で、ヨーロッパでは同一労働同一賃金を前提とした職能給が一般的であり、仕事の範囲が限定的であることから、人事評価の基準が明確であり、専門性の高い女性が効率よく働いて高い地位を得ることが可能である。女性の育児への考え方についてみると、ドイツ・日本と比べて働き方の柔軟性が高いオランダでは家庭での育児が重視されている。 予備的な分析の結果、日本では未就学児をもつ男性の家事・育児時間は近年上昇傾向にあるものの、依然として男女差が大きい。また、父親が家事・育児参加の頻度を増すと、母親の結婚満足度は線形に上昇する。しかし、父親がほぼ毎日なんらかの家事・育児を行うような状況では父親の結婚満足度は低下することが明らかとなった。日本では家事・育児の役割分担についての期待水準が男女で異なることが示唆される。今後は、各国における女性の就業や育児における社会状況の違いに留意しつつ、政策による女性就業の拡大が夫婦の役割分業や出生行動にいかなる影響を与えたのかを分析して論文にしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度においては、先行研究のレビュー等を通じて、日本をはじめとする各国におけるジェンダー不平等がどのような社会的要因によって生じているのかについて、文献の読解を通じた考察を行った。また初年度に入手したデータを用いて、日本を中心とした予備的な分析に着手した。その結果、日独蘭のジェンダーに関する状況や政策について理解を深め、国際学会での報告など一定の成果を得ることができた。また、近年における日本の女性就業を巡る政策的な展開については諸外国の関心も高く、文献研究の成果を全米4つの大学において報告・議論する機会を得た。折しも、アメリカは大統領選挙の最中であり、ジェンダーも重要な政策課題のひとつとなっていたため、大変有意義な意見交換を行うことができた。また、昨年度は研究協力者3名全員と国内外で面会し、今後の連携についての確認を行った。今年度は個別研究課題の分析を行う中で、国際連携の取り組みを加速させていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度においては、入手したデータを用いて以下の研究課題へと取り組む。 (1)男性の家事時間・育児時間の規定要因に関する研究 本研究においては、日独蘭の生活時間調査の個票データを用いて、政策転換の前後の2時点における男性の家事時間・育児時間の違いについて国際比較を行い、政策の転換が男性の家事時間・育児時間と規定要因の双方にどのような影響を与えたのかを明らかにする。オランダでは労働時間による差別が禁止された1996年を、ドイツでは経済支援に偏っていた子育て支援をスウェーデン型の両立支援策へと転換した2006年を、日本では育児休業制度をはじめとする女性就業の両立支援策が段階的に拡充された2000年代初めの10年間を政策転換の時期とする。 (2)男性の家事参加・育児参加が第2子・第3子の出生に与える影響についての研究 まずは日本のデータを用いて、女性の就業や男性の家事参加・育児参加が第2子・第3子の出生に与える影響についての分析を行う。可能であれば、2001年に第1子を出生したグループと2010年に第1子を出生したグループとの比較を行う。 (その他)昨年度取り組んだ国民移転勘定(National Transfer Accounts:NTA)の枠組みを利用したジェンダーのマクロ経済分析が各国の状況を理解する上で大変有用であった。今年度についても引き続きNTA関連の作業を行い、家事・育児といった世帯における無償労働のジェンダー差が、男女の働き方やマクロ経済に与える影響についての国際比較を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
概ね予定通り予算を執行できたが、想定よりも謝金による支出が多かったため、物品の購入を控えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は研究協力者の招聘を予定していることから、旅費に使用する予定である。
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Research Products
(13 results)