2017 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマ工芸美術の基礎的研究 ~テッラ・シギラタについて~(国際共同研究強化)
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15KK0070
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
向井 朋生 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, リサーチフェロー (30620463)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 美術史 / 工芸史 / 考古学 / ローマ土器 / 古代ローマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は前回採択された申請者が研究代表者を務める科学研究費助成事業(基盤研究(C))「古代ローマ工芸美術の基礎的研究 ~テッラ・シギラタについて~」の成果をわが国の研究者が研究ツールとして利用できるように画像データを補い「実体化」させることを主眼にする。 前研究は古代ローマ工芸美術において重要な位置を占めるローマ土器であるテッラ・シギラタ(Terra Sigillata)の現在までの諸外国の研究を精査し体系付け、わが国の関連諸学の研究者(西洋美術史、西洋古代史、古典考古学)が参考としうる手引を作成することにより、古代ローマ工芸史、ひいては古代ローマ文明研究全体に関わるわが国の研究に貢献することを目的とするものであった。テッラ・シギラタはその流通量と広範な分布範囲は当時の交易の状況を示し、その土器編年の詳細さは貨幣や美術・建築様式などと比肩する有効な年代決定資料として遺跡・遺構の年代比定に貢献する、考古学・歴史学的に重要な資料でもあることから、古代ローマ世界で最も重要な土器の一つである。 本国際共同研究では紀元前2 世紀から紀元後7 世紀に渡り地中海各地で生産・流通したテッラ・シギラタから、生産工房(もしくは生産地域)とその時代が判明しているものから抽出された土器サンプルを元にして、それらの写真・図面とその地質学的胎土分析を織り込んでデータベース化を行い、インターネット上における公開を最終的な目的とするものである。 良質かつ公表可能なサンプルを探す過程で、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)のロジャー・ウイルソン教授の協力を得て、氏の主催したシチリア在カウカナ遺跡発掘において出土した土器を、5月に行われた国際学会において分析して発表を行った。その中の紀元後6世紀の保存状態の良い豊富な北アフリカ産テッラ・シギラタは本データベースを構成する要素の一部となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況の遅れは、申請者が本採用されたカミーユ・ジュリアン・センターにおける初年度業務の遂行義務により、当初予定されたエフォートを大きく下回る活動を余儀なくされたためである。このたび、申請者のセンターにおける次年度業務(今秋以降)のプログラムについて、センター長(ジャン=クリストフ・スリソー教授)と面談を行い、次年度業務において本国際共同研究の実施を優先事項とすることの同意をみた。 国際共同研究者であるカミーユ・ジュリアン・センター所属研究ディレクターのミッシェル・ボニフェ博士、およびテッラ・シギラタの地質学分析において助力をいただくジェノヴァ大学の地質学者クラウディオ・カペリ博士とはすでに本研究遂行についてのカレンダー作成を行っている。データベース化するテッラ・シギラタの選定については、前出のシチリア在カウカナ遺跡発掘出土テッラ・シギラタに加えて、国際共同研究者ミッシェル・ボニフェ博士の協力の元、博士がマルセイユのブールス遺跡で行った発掘出土土器、カミーユ・ジュリアン・センターが所有する、チュニジアからの出土品国外持ち出し規制以前にフランスにもたらされた工房単位の土器コレクションを優先することになり、それらのデータ化が開始された。
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Strategy for Future Research Activity |
選定されたサンプルのデータ化と並行して、引き続き国際共同研究者ミッシェル・ボニフェ博士と協議の上、データベース化するテッラ・シギラタの選定を行う。テッラ・シギラタの各カテゴリーから広く収集されるサンプルは、写真撮影後、随時プレパラート標本にされジェノヴァ大学の地質学者クラウディオ・カペリ博士による地質学分析の対象となる。 公開されるデータベースの様式については、いまだ意見の一致を見ていない。ミッシェル・ボニフェ博士は以前に博士が主導するプロジェクトで作られたPECL: Prototype d'Encyclopedie Ceramologique en Ligne(ウェブ土器辞典プロトタイプ)http://www.pecl.fr/のシステムの再利用を提案するが、カミーユ・ジュリアン・センターのデータベース担当者はそのシステムが民間の業者によるシステム構築であり、恒久性の問題から公開されるデータベースはセンターのサイト内に独自のページを設置することを勧める。情報の恒久性と迅速なサイト構築を主眼として、早急に公開されるデータベースサイトのプラットホームの選定を急ぐ。
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