2017 Fiscal Year Research-status Report
高対称カゴ状結晶構造に起因する複合量子自由度の超音波物性研究(国際共同研究強化)
Project/Area Number |
15KK0146
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (10456353)
|
Project Period (FY) |
2016 – 2018
|
Keywords | 強相間電子系 / 物性実験 / 低温物性 / 磁性 / 超音波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の眼目は、カゴ状結晶構造を持つ化合物の試料育成を行い、超音波測定によってその電子物性を明らかにすることである。 カリフォルニア大学サンディエゴ校に1ヶ月強滞在し,立方晶のカゴ状化合物RNi2Cd20 (R = 希土類,アクチノイド)の単結晶育成と試料評価を行った。特にSmNi2Cd20は超音波測定に適する大型の単結晶の育成に成功したため、米国でX線構造解析を行った後に、北海道大学に試料を持ち帰り、EDS、磁化、比熱などの試料評価、超音波による弾性定数の測定を行った。その結果、弾性定数C44の低温領域にCurie-Weissの法則に従うソフト化が観測されたことから、Smイオンは3価の価数成分を有し、Γ8 四重項と-Γ7二重項が擬縮退していることの傍証を得た。また、TC1 ~ 6.8 KとTC2~5.9 Kにおいて逐次相転移が起こっている可能性があり、多極子の自由度がSmNi2Cd20の基底状態・並びに重い電子状態に寄与していることを強く示唆する。その一方で、TC2程度の転移温度をもつ不純物相が混在している可能性も完全には排除できないため、結晶を再育成しそれらの可能性について検証する必要がある。 ドレスデン強磁場研究所に1ヶ月間滞在し、Elizabeth Green博士と協力してPrNi2Cd20ならびに(U,Th)Be13の極低温比熱測定を行った。特に(U,Th)Be13については480 mKに超伝導に由来するピークと380 mKにブロードな肩状の異常を観測した。この結果は、弾性定数と超音波吸収係数に現れた異常とも符合し、本系の特徴的な2段の超伝導転移を捉えていると考えている。 チェコのカレル大学との共同研究で育成されたLuBe13, ThBe13はそれぞれTc = 630 mK, Tc = 125 mKで超伝導転移を示すことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
米国でRNi2Cd20(R=希土類)の結晶育成に成功し、北海道大学でも同様の結晶育成方法を試行し、再現性を確認できたことから、当初の目的は十分に達成されている。 カリフォルニア大学ではUを含む1-2-20系化合物の育成にも挑戦した。超音波測定が可能なサイズの単結晶は得られていないが、その過程で未知の立方晶化合物が育成されていることを発見した。500 mKまで比熱測定を行ったが明瞭な相転移は観られず、X線構造解析等による結晶構造の同定は不純物相の影響で困難を極めている。U試料は米国から日本へ移送することができないため、北海道大学で同様の試料育成を行い、同様のU化合物を得ることに成功した。引き続き、X線振動写真や各種物性測定を行い、結晶構造と化学組成の同定を試みている。 最近、広島大学の鬼丸らによってPrIr2Zn20のY希釈極限系における四極子近藤効果に関する報告があった。1-2-20系の量子基底状態を超音波で研究する本研究の眼目と合致すると考え、共同研究がスタートした。資料提供を受け、次年度にドレスデン強磁場研究所等で希釈冷凍機を用いた超音波実験を行う。 研究代表者が橋渡し役、かつPIとなり、チェコ・カレル大学とドレスデン強磁場研究所の共同研究が実現した。近年育成に成功した、新物質UAu2Si2のパルス磁場下における磁化・超音波測定を行なった。当初の研究計画には無い物質であるが、多極子自由度と混成効果が競合する物質であり、超音波測定がその機構解明に適したプローブであることから、急遽国際共同研究の課題として加えた。60 Tまでの磁化、ならびに横波超音波3モードの測定を20 Tまで行い、不完全だった極低温・強磁場領域の磁場-温度相図を完成した。全ての横波超音波にソフト化が現れたことから、本系が示す低温磁性と対称性を低下させる格子不安定性との連関を強く示唆する。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで育成に成功した単結晶試料の超音波測定を推進すると共に、一部の結晶の再育成を行い、不純物相の混在が少ない単結晶を得るために注力する。 チェコのカレル大学で育成されたLuBe13, ThBe13については、超音波実験にたいし適当なサイズの単結晶試料が育成できた場合は試料成形を行い、Luは日本で、Thはドイツでの超音波測定に挑戦する。 ドレスデン強磁場研究所において、SmNi2Cd20 のパルス強磁場実験を行い、強磁場領域での四極子感受率の解析から、基底状態の対称性を決定する。 結晶育成の過程で得られたUを含む未知の立方晶化合物の同定も引続き行い、新しい研究シーズの可能性を模索する。 日米欧三カ国の連携によりスタートした新しい共同研究(UAu2Si2, (Y,Pr)Ir2Zn20)を軌道に載せ、発展型の研究計画を然るべき競争的資金に応募する。
|
Research Products
(7 results)