2015 Fiscal Year Research-status Report
複数金属上での炭素-水素結合活性化の遷移状態制御によるクラスター分子触媒の創出
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15KT0064
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
劔 隼人 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60432514)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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Keywords | 炭素―水素結合活性化 / 二核錯体 / クラスター錯体 / 遷移状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
高効率、高選択的な有機合成反応の達成には合理的な分子設計指針に基づく高性能触媒が必須であり、様々な均一系錯体触媒を用いて多彩な反応が可能となりつつある。さらに最近では、計算化学的手法を用いた反応中間体の予測や反応の遷移状態構造をもとに有機配位子の分子設計が進み、目的生成物の合成に必要な反応ステップ数の大幅な削減や廃棄物の低減につながる新しい均一系錯体触媒が開発され、物質変換において金属錯体触媒の重要性は非常に増している。 平成27年度はフェニルイミド配位子により架橋された二核チタン錯体において、二つのチタンと窒素から形成される4員環の各結合が柔軟に伸縮することでフェニルイミド配位子上の炭素-水素結合切断と続く内部アルキンの挿入反応により炭素-水素結合の直接官能基化が進行することを見出した。単核イミド錯体では類似の反応が進行せず、クラスター分子特有の反応性である。さらに計算化学的手法を用いた考察から、対称構造を有する安定な原料錯体に対しチタン-窒素結合が伸縮するとともに環構造が歪む遷移状態を経て炭素-水素結合とチタン中心が接近し、その後、結合切断が進行することが分かった。すなわち、多金属中心が基質捕捉サイトとして作用し、基質の捕捉により生じた反応中間体が分子内で柔軟に歪み、炭素-水素結合を切断する遷移状態を形成することを明らかにした。これらの計算化学に基づく結果は、実際の反応を核磁気共鳴により追跡し、速度論に基づいた解析を通した実験的な熱力学的パラメータの値ともよく一致している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属―窒素二重結合を有するイミド配位子は電子不足な前周期遷移金属の支持配位子として多用されている。このイミド配位子は金属との間に3重結合性を帯びていることから、金属とイミド配位子の窒素上の置換基とはほぼ直線関係にあり、窒素上の置換基が金属上と直接的な相互作用を起こすことは極めて困難である。われわれは、金属触媒を用いたイミド配位子の変換に着目し、イミド架橋錯体を利用することでイミド配位子の窒素上の置換基と金属中心とを近接させ、イミド配位子の窒素上の置換基の炭素―水素結合活性化が可能になると考えて研究を行ってきた。その結果、イミド架橋チタン二核錯体を構造モチーフとする錯体と内部アルキンを用いて反応を行うことで、イミド配位子上の炭素―水素結合に対して内部アルキンが挿入反応を起こした錯体が得られることを見出した。この反応は二核錯体を用いた場合にのみ観測されており、架橋による直線的なイミド配位子の構造を崩すことが非常に重要であることが分かる。従来の炭素―水素結合活性化においては、配向基を用いて炭素―水素結合を金属中心近傍に配置する方法のみが着目されており、配位子の架橋構造形成による炭素―水素結合の金属中心近傍への接近方法は検討されてこなかった。本成果は、反応の遷移状態として複核化を考慮することが通常は困難な反応位置での炭素―水素結合活性化に極めて有効である、とする当初の想定に対応する内容であることから、極めて研究は順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
複数の金属が近接する位置にあることで単核金属錯体では達成できない反応性の発現や反応中間体の捕捉が可能である反応系に焦点をあて、各反応段階の多核金属クラスター分子の単離と分光学的解析を通した遷移状態の理解に向けて研究を進める。中でも、近年活発な研究開発が進む炭素-水素結合活性化反応において、多核金属クラスター分子構造を形成することで初めて進行する触媒反応、ならびに、素反応に着目し、平成27年度に得られた二核クラスター錯体の知見をもとに、異なる金属中心(例えば同じ4族遷移金属であるジルコニウムやハフニウム)や支持配位子(シクロペンタジエニル配位子上の置換基効果など)を系統的に変え、活性化エネルギーがより小さなクラスター構造を明らかにするとともに、それぞれの配位子系における動的挙動を解明することで、基質の捕捉から分子内の動的挙動に基づく炭素-水素結合活性化過程に至るまでの遷移状態制御による炭素―水素結合官能基化反応の触媒化へと展開する。さらに複雑な三核以上のクラスター錯体上での反応場を利用した反応開発を進める。
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Causes of Carryover |
平成27年度は遷移状態解析に関する計算化学的手法を導入し、実際に運用を始めたところであり、当初の想定ほど計算化学に関するワークステーションの設置が進まなかったため、予定金額より若干少額での運用となり、翌年度への繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計算化学に関するワークステーションを運用し、実験化学的手法、ならびに、計算化学的手法の両面から遷移状態解析に取り組む予定である。
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