Research Abstract |
本年度は最終年にあたるので,これまでの研究を総括したい.理論研究では,新たな制度設計の概念であるセキュア遂行を提案し,その理論性能をほぼ解明している.従来の理論では主体の行動原理をあらかじめ決めて分析するのが通常であるが,セキュア遂行では,ナッシュ均衡から支配戦略均衡までのすべての均衡概念を含む遂行メカニズムを想定している.さらには,公共財のある世界で,この概念を用いて実験を実施してみると,従来の支配戦略のみのメカニズム(たとえばクラークメカニズム)よりも実験性能がよいことを確認している.また,公共財供給における非排除生を明示的に扱うモデルにおいて,フリーライドを排除するメカニズムの構築の不可能性を示す研究もほぼ完成している.経済学の領域にとどまらず,社会心理学研究者との共同研究も開始するに至っている.たとえば,大坪氏(神戸大,社会心理),ラポポート氏(アリゾナ,社会心理)らとの主体の拘泥に関わる実験研究などもほぼ完了している.ネットワーク選択におけるブレイスパラドックス(非効率な道路の建設)が起こる環境を作り,そのナッシュ均衡が外的な状況の変化により拘泥が起こるのかどうかを検証している.ヒトの経済行動の背景にある普遍的な行動(ユニバーサル・ビヘイビア)の一つにスパイト行動がある,という仮説の検証として,fMRIを用い脳を撮像し,その結果を検証するというニューロサイエンスとの共同研究もまとまりつつある.ヒトの脳は親切行動には過敏に反応するものの,スパイト行動に対しては相対的に反応しないというスパイト・アバージョンを観測し始めている.この研究は基盤Aの終了の後にも継続する予定である.さらには,被験者に食物を実際に食べていただくという食の安全性に関する実験と調査,医師の過剰負担が問題になっている産婦人科における分業体制の確立,地球温暖化の制度のデザインなどを視野に入れ,我々が提唱する制度設計工学の手法が現場で生かされつつあるのではないのかと自負している.
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