Research Abstract |
結晶中を通過する高速イオンは,結晶中の原子列及び原子面を横切ることで周期的な振動電磁場を感じる.これは一種の疑似光子と見なすことができ,このエネルギーがイオンの遷移エネルギーと一致するとき,イオンは共鳴的に励起される.これをコヒーレント共鳴励起(Resonant Coherent Excitation : RCE)と呼ぶ.我々は,観数100MeV/uの軌道電子を基底状態に持つArやFeイオンを,Si結晶中に通過させて,軌道電子を基底状態から励起準位にRCEを通じて励起させた.本研究では,特に厚さ1μmという極薄結晶と,高エネルギー重イオンの組み合わせを採用することにより,結晶中でのイオン化を大幅に抑え,非チャネリング条件下におけるRCEを観測することに初めて成功した.このとき,イオンは3次元結晶実空間中において特定の原子面を横切る際の周期によって励起されるため,いわば,3次元コヒーレント共鳴励起(3D-RCE)といった状況が達成されたことになる. 昨年度,3D-RCEを利用して,A型3準位間の2つの遷移を同時励起する2重共鳴を観測した.その結果,同時励起2重共鳴条件では共鳴ピークが2つに分裂する様子が観測された.これは,我々の利用する2^1Pから1s2s2^1Sへの遷移を引き起こす結晶電場の強度が強いため,この2っの状態が振動電場によって結合したドレスド原子状態が形成されていることを示唆しており,量子光学分野でしばしば観測されるAutler-Townes 2重項に相当する.今年度は,3D-RCEに伴う脱励起X線放出の異方性を詳細に観測することにより,振動電場の偏光方向に関する情報を得ることにに成功した.また,2重共鳴の励起に用いる振動電場の強度を変化させたり,励起準位にn=3準位を用いるなど様々な応用を試みた.さらに,この2重励起によって生成した準安定状態の寿命を正確に測定するため,結晶後方に炭素薄膜フォイルを挿入することにより,これをイオン化させた。フォイル挿入位置を変化させることにより,実際の寿命評価の可能性を探った.このような一連の実験から,X線領域とVUV領域のレーザー光を同時照射することによってひき起こされる3準位系のコヒーレントなダイナミクスを研究することが可能になったと結論される.
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